関西発・地方創生とマーケティング #21
「マーケティングの4Pをもう一度、見直そう」ダイキン工業 片山義丈氏が、そう語る理由
2020/06/17
Promotion ブランディングは「妄想」
いい製品、いい値付け、いい流通があって、その価値を人々に伝える。要は、それが商売ということですよね。そうした流れが分かった上で、「プロモーションをマーケティングと言うのはいい」と話します。
実際、日本ではマーケティングと言えば、プロモーションを指していることが多いですよね。例えば、ダイキンでもエアコンの電気代が他社製品は2万円でダイキン製が1万9980円だとすると、社内には「この20円という微差を伝えることが、マーケティング(プロモーション)の仕事だ」と言う人もいるそうです。
そうした環境で、ブランディングについて考え続けて33年。ようやく腹落ちしたのは、5年前のマーケティングカンファレンスで、当時USJでマーケティングを統括されていた森岡毅さん(刀)の話を聞いたことがきっかけだそうです。
「バカなマーケターほど差別化したがるけど、USJに人を呼ぶために一番効果があるのはディズニーと同じにすること。そうすればわざわざ東京に行く必要がないから、名古屋から西に住む人たちが来る。ブランディングとは、決して世に言う差別化ではない。みんな差別化が目的になってしまっている」
そこから片山さんは「ブランディングとは妄想なのではないか」と考えるようになったそうです。「7割の企業では、マーケティングが大事。例えば、アジアにおけるダイキンのエアコンはブランド力、つまり妄想で売れているのではなく、買いに行くとダイキンのエアコンしかないから売れている。つまり、Placeを押さえている。それこそがマーケティングなのだ」と。
一方、国内の成熟企業は、その性能は微差なので、その差にしのぎを削り戦ってきたそう。そうした企業はマーケティングではなく、なんとなく良さそうという妄想、つまりブランディングで売れている可能性がある。つまりブランディングが大事な業界もあると言います。
洗剤が良い例で、生活者にとっては、ほぼ同じで汚れ落ちに不満がある洗剤はない。つまり機能が微差なのに、なぜその企業の製品を買うのか。例えば、シャツの首筋に着いた汚れを完璧に洗い落とす洗剤があれば、皆がそれを買う。その場合、なんとなく良さそうだ、などという妄想、すなわちブランディングは無力だと言います。なぜならそれは絶対的に良いことが、誰が見ても分かるから。
しかし、実際はそこまでの機能を備えた洗剤は、今のところ存在しない。だから機能的価値より情緒的価値が大事になる。値段が同じなら、なんとなく良さそうな方を買う。そういう意味では、洗剤はブランディングが大事だという認識は正しいとなるわけです。
片山さんは「本来は機能的価値が上なのだけど、現実的には製品や価格に差がつけられないから、そこではないところ。つまり、情緒的価値というフィールドで戦わざるをえない。これが今のマーケティングで起こっていることで、だからブランディングが大事になる」と語ります。
このように、業界によってマーケティングとブランディングの関係は変わる。ただ、みんな暗黙裡に機能的価値では差がないという前提に立ってはいるけれど、ほとんどの人はそれを認識していない。そこが問題だと指摘するのです。