関西発・地方創生とマーケティング #23

マーケティングは「誰に売るか」より、「誰が売るか」が大事 【ユーグレナ 永田暁彦】

 

2つの反対軸をつくり、メディアの注目を集める


 ある時、お台場にある日本未来科学館とコラボレーションしてクッキーをつくることになり、そこは科学の世界だからと、そのまま「ミドリムシクッキー」という名前で発売したところ、メディアからの反応が良く、たくさんのニュースで取り上げてもらえたそうです。

 この経験が後押しとなり、それ以降は、素材ユーグレナを中心に「2つの反対軸」を意識して訴求するようになります。

 「例えば、“東大の研究者”が“ユーグレナ”を売ると聞くと、一瞬は面白いけど、そこまで意表をつくものではないので話題にはなりません。ところが、これが“マッドサイエンティストの東大生”と“ギャルしか集まらない竹下通りのカフェ”という、まるで正反対な存在がコラボレーションしたらどうでしょう?

 これなら、メディアから面白がってもらえそうです。そして、ユーグレナの情報に触れる人の数が100倍になれば、商品を購入する確率が1/10に下がっても、買ってくれる人の数は10倍になります」

 現在は、人間のカラダがユーグレナを摂取すると、どんな効果が得られるのか、という便益に対する理解を上げていくために、ヒト臨床試験などを行い、ファクトづくりを強化し、メディアで情報を受け取った人の納得感を高めるよう、PRと広告で発信するという活動を地道に行っているそうです。


 

誰に何を売るかではなく、「誰が売るか」


 一般的に、マーケティングは「誰に」「何を」売るかについて考えますが、永田さんにとって大事なのは「誰に」ではなく「誰が」売るか、だそうです。

 「ターゲットは意識しないのですか?」と聞くと、逆に永田さんから「ユーグレナは、誰に売ったらいいと思いますか?」と質問が返ってきました(笑)。そして、ユーグレナを「誰に売るか」という問いは、そもそも別のレイヤーの話だと言います。

 「例えば、飲料水を誰に売るかと考えた場合、シニア層向けの水、若年層向けの水、エシカル消費をする人向けの水など、色々な種類の水があります。しかし、それはあくまで水という存在に上乗せされた概念。ユーグレナ社は、ユーグレナを水と同じレイヤーにまで引き上げて考えているのです」

 例えば、ビタミンCも一緒で、風邪をひかないように、と考える人向けにはそういうプロダクトとして変換され、美肌や疲れの軽減について考える人にも同様に変換されます。つまりプロダクトになって初めて、ターゲットが存在することになると話します。
 
ユーグレナオフィス
 
 では、「誰が売るか」が大事になるとは、どういうことでしょうか。

 それに対して永田さんは、「ユーグレナ社のマーケティングは、組織戦略がスタート」と語ります。ここ数年間は、永田さん自身が実現したいマーケティングに合うメンバーを採用してきました。そして、採用時に見ているのは、「自分の担当する商品の売上が10倍になったとして、あなたは幸せですか?」という問いに対する答えを持っているかどうか、だそうです。

 「例えば、ただ単にビール市場でシェアを奪い合うことに意味を見出すのではなく、環境負荷を低減できるビールのシェアを増やすためであれば、人生をかける意味があると考えられる人。このように、モノを売るという行為に意味付けができる人、あるいは自分の人生をかけるという意味付けができる人、そういう人を探しているのです」

 そして今では、出雲社長と永田さんの2人で取り組んできた組織づくりに共感する人材が集まっているそうです。

 大事なのは「船はこういう状態で、こっちに進むんだ」という共通認識がつくられていることで、それこそが「誰に何を売るか」ということ以上に、「誰が売るか」ということが大事な理由だと言います。

 つまり私が思うに、会社のビジョンや方向性に共鳴できる人材が集まっているからこそ、お客さまとのコミュニケーションに一貫性を持つようになり、ユーグレナ社の考え方を正しく周囲にも広げられて、結果として共感する人が増える、ということだと思いました。

※中編に続く
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