次のECの鍵は「Cross Dimension」にある #02
消費者の「偶然の意思決定」を、ECサイトはどう捉えるべきか【ディノス・セシール 石川森生】
2018/07/17
- オムニチャネル,
- 通信販売,
- EC,
- ダイレクトマーケティング,
偶然の川を必然をもって泳ぎきる、そのためのテクノロジー
そろそろ気温が上がってくるこの季節、休日に子供を外で遊ばせているときに、スキニーなデニムではさすがに不快なため、今年は自分の短パンを一つ新調しようかと思い立つ。その時は、商品を探し始めるには至らず、いつかどこかで買えばいいくらいの意識だった。そして2週間ほどした、ある日、短パンのことなど全く忘れていた折、たまたま打ち合わせ先への移動中にsacaiの本社が入っているビルの前を通り過ぎる。その瞬間、「今年はsacaiのショートパンツが欲しい」と、意思決定される。
この時、私の意思決定の手前には、2つの重要な因子がある。それは、「気温の変化」と「ブランド認知」だ。しかしそのどちらも、企業からのアクションではなく、偶然が重なってたまたま生じたものである。この偶然によって、次にクローゼットに追加されることになったのは、シャツでもなければ、お気に入りのブランドでもない。その他、たくさんの企業からのアクションも、私の購買という成果に結びつくことはなかった。
ビジネスの文脈で“偶然”と聞くと、かつて読んだ松下幸之助の逸話が思い出される。「人生の90%は運命」であり、人生の根底には偶然が川の水のように流れている。そして残りの10%を必然にすべく努力することで人生は大きく変わる、という話だったと記憶している。
これは中村天風曰く、「運命には二種類ある。どうにもしようのない運命を天命といい、人間の力でうち開くことのできるものを宿命という」に通じ、ドイツの哲学者であるショーペンハウアーが著書『意志と表象としての世界』で「われわれに苦しみをもたらした当の事情が偶然にすぎなかったとわれわれが考えること自体が、苦しみにむしろとげを与えるものなのである」というように、偶然の結果を努力によって是正可能な課題として捉えなければならないことを示唆している。
さて、これをECとしてどう考えたらよいだろう。
Googleが提唱するMOTの形、「ZMOT(Zero Moment of Truth)」では、生活者は思い立ったらすぐに検索するかSNSやレビューサイトで情報を探すとあるが、実際にはそうでない「真実の瞬間」が存在している。
これは、Amazonの全米EC売上におけるシェアが44%であるのに対し、全米小売売上に対するシェアが4%に留まることと関連しているように思う。
ここから「人は欲しいと思ったタイミングやチャネルで直接、消費行動を起こすかもしれないし、EC、もっと言えばインターネットの中で欲しい気持ちになることは少ないのかもしれない」といった仮説が生まれる。
もしそうであるならば、企業としてネットの世界に閉じていることは必然ではないし、すでに欲しい気持ちになっている消費者の争奪戦を、Amazonと繰り広げることは賢い選択とは言い難い。
生活者とのコミュニケーションを考えるにあたり、ネットが消費行動の出発点であるといったフレームワークは、いささかのポジショントークを感じるし、テクノロジーに対して盲目的になりすぎるマーケターの悪い側面が色濃く反映されているように思う。
私たちがリアルに生きている限り、インターネットから得る情報よりも、リアルから受容する情報の方が生身には堪えるという実感があるし、同時にデジタルマーケティングを突き詰めて見えた限界ともリンクする。
今こそ、インターネット史以前のあえてプリミティブなナレッジやチャネルと、現代のテクノロジーを組み合わせ、新しい顧客価値を生み出すときだ。この段階においても、すでにAmazonは先に気付き、動き出しているのだから。
「ピーピーピー」と、ちょうど食洗機が乾燥まで終えたことを告げている。そういえば、確かうちの食洗機はPanasonic製だったなぁ。
- 1
- 2