関西発・地方創生とマーケティング #29前編
「前向きなバカが勝つ」ホームセンター業界注目のDIY FACTORY山田岳人さんがリクルートで学んだこと
オンラインとはほど遠い「工具の卸」から「ECの世界」へ
転機となったのは、結婚でした。奥さまのご実家が工具卸問屋の大都で、結婚と同時に後継者として転職したのです。そこでは、古くからいる社員には「絶対に負けない」と、必死に工具の名前を覚え、毎日トラックに乗る日々が5年ほど続きます。しかし、いくら勉強しても、知識はお金になりません。例えば、450円で仕入れた部品をホームセンターに500円で卸す。するとホームセンターは、それを1000円で売ります。「卸1割」と言われるゆえんです。
結局は価格競争。収益性が高い小売業に転じたくても、店を出すにも在庫を持つにも、お金がかかる。そんな2002年頃、当時の状況に限界を感じていた山田さんは、「これからはECだ」と言っていた友人の言葉にすがるような気持ちで、小売業に転じる決意をします。話を聞いた翌日パソコンを購入し、ホームページビルダーでWebサイトを立ち上げます。とは言え、スキルも無いし、周りに詳しい人もいません。本を買い、見様見真似で始めたそうです。
昼は卸の営業をして、夜にECサイトの運営をする。採用の余力もないので、月商100万円になるまでは、ひとりでやると決めていたそうです。一方で、はじめて商品を買ってくれたのが遠方に住む福島県の方で、これは「日本中に売れる」のではないかと可能性を感じました。
ただ、ホームページを立ち上げるだけではECサイトにはならないので、楽天市場にも出店したそうです。ちなみに今ではGoogleで「DIY」と検索すると、DIYファクトリーのサイトが上位に表示されるようになりましたが、引き続き楽天市場への出店は続けています。それは、「人がネットショッピングする時に検索するのは、楽天であり、アマゾンだからだ」と語ります。出店料は、広告費と考えているそうです。
人件費はコストではなく投資だと思うこと
藁(わら)にもすがる思いではじめたECの売上が伸びつつあるとは言え、それでも大都の経営は年々厳しくなります。そしてとうとう、古参の従業員を全員解雇するしかなくなるのですが、先代は一言も文句を言わなかったそうです。すべて任せてくれたと。先代からは「会社だけは潰さないでくれ」と言われていたので、従業員に規定の退職金を支払った後、工具の卸問屋から工具のECへと舵を切り、業績を伸ばしていきました。
そして、1年半経ってようやく専任の社員を一人雇います。すると売上が急伸したそうです。理由は、お客さまへのレスポンスが早くなったことと、競合がいなかったので先行優位となったからだそうです。
その時、山田さんは月商100万円になるまで採用しないと決めてしまうのではなく、100万円以上の月商を上げるために、もっと早い段階で採用するべきだったと反省しました。人件費は費用ではなく投資なのだと気付いたそうです。つまり、儲けるために採用するのであって、儲かったから採用するのではない。今思えば目的と手段が逆だったのです。
はじめて取り組む事業には専任を置かないと伸びない。なぜなら、既存の業務と掛け持ちすると言い訳ができてしまうからだと言います。