ニュースと体験から読み解くリテール未来像 #38

実態商圏を見る際は、「顧客のために」では失敗する:場に合わせる店、場を作る店③

       

データの取得方法


 データの取得方法は主に3つあります。
 

  1. 会員情報

 会員カードのデータを利用します。月数回以上利用する日用品を扱う小売業であれば、会員比率が50~80%程度はあります。会員カードに関連したデータ量は豊富です。IRで「弊社は会員◯百万人のビッグデータを活用し…」とうたう大手小売企業が多いですが、残念ながら実際に活用できていないことが大半です。

 その主な原因は、日本の小売業の多くがデータ分析に人的投資をしないからです。ガートナー社の調査によると、「日本ではデータ活用に関する責任の所在が不明確で、大企業においてデータ活用の専門組織を設置している割合は15%」とあります。

 参考:ガートナー、デジタル・トランスフォーメーションとデータ/アナリティクスの取り組みに関する調査結果を発表

 多くの小売業では、データ分析をエクセルが得意な社員に任せ、KKD(勘・経験・度胸)の営業幹部が見たい(部下に見せたい)データを依頼して作業するに留まります。運良く、データ分析で成果を出そうとする社員が出現しても、孤立無援であるという話はよく聞きます。
         

      
 とはいえ、筆者も時折依頼されますが、事業会社のID-POSデータを分析してインサイトを見つけるというのは、そう簡単な仕事ではないことも事実です。最終的にはN1をどれだけ考察して仮説を作り、仮説の再現性をデータで立証することが大事になります。例えば、女性用下着の店であれば、自ら買い物をしない“男性サラリーマン”が自分ごととして顧客像を捉えることは難しいでしょう。

 「顧客のために」という(上から)目線ではなく、「顧客の立場で」考えよと言っていたセブン-イレブンを突出した企業にした偉人・鈴木敏文氏の金言通りです。顧客を理解したいならば、「顧客の立場」に立つのが第一歩です。

 そのためには業態を問わず、自社の顧客の立場で(身分を明かさずブラインドで)買い物をすることは必須です。これは前職における筆者のライフワークでした。例えば、取締役や役員が訪店する時と、そうではない素の姿が同じ高品質であれば、その店は素晴らしいと言えるでしょう。

 データの3つの取得方法として、「会員情報」を筆頭に持ってきたことには意味があります。ID -POSデータとの紐付けができるので、実態商圏ごとに購買傾向を分析することができるからです。

 ごく一例を挙げると、実は1次実態商圏よりも2次実態商圏の方が、ロイヤリティの高い顧客が見つかります。そういった顧客がいつも購買している商品は、ファンをつくる商品である可能性があります。

 筆者の経験上、来店頻度の低い業態ほどこういった傾向になるので、アパレルなど月1回以下、来店する顧客が限られる業態でも会員制度を導入する価値はあります。手法についてはフリークエンシーが低いのであれば、「L I N Eなど多くのユーザーが慣れているもの>自社アプリ>物理カード」という優先順位になるでしょう。必要な情報が得られるのであれば、共通ポイントカード導入が最適解のこともあります。

 長くなりましたので、データの取得方法の残り2つは、次回・連載39回に続きます。
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