関西発・地方創生とマーケティング #31後編

NIPPONIAに泊まる目的をつくる NOTE代表藤原岳史


 NIPPONIAにおいては「宿泊客」を「ファン化(仲間・家族)」することで、暮らすように泊まるという体験を提供しています。職人であるおじいさんと、宿泊者である若者が家族のような関係になって、次の年も自分の田舎に帰るようにリピートする関係が生まれます。まさに、顧客の満足度を高めることで、マーケティングでいうCRMができていると言えるのではないでしょうか。

 その他にも、わずか12棟しかなかった丹波篠山市の丸山集落では、空き家になっていた7棟のうち3棟を宿泊施設として再生しています。そして宿泊者は、集落に明かりを灯してくれる、1日だけの住民として迎えられるそうです。地域への、そんな貢献の仕方もあるのですね。
 
丸山地区
 その土地を元気にするには、人が行き交うこと。住む人のためには仕事、来る人のためには観光など、その目的となるものが必要だということです。
 

どうすれば古民家を再生した宿泊施設の高価格販売を維持できるのか

 ところで、NIPPONIAは、古民家を再生した施設であるが故に、最近建てられたホテルのような、今の生活に合った快適な空間かというと必ずしもそうではありません。もちろん、古民家が好きという人は一定数はいるでしょう。でも果たしてそれだけで、決して安いとは言えない料金を出して泊まりに行くでしょうか。

 ホテル業界では、ロケーションや部屋の面積、内装、サービス内容などから、宿泊代と稼働率を想定します。そして、そこから得られる利益が投資に見合うかどうかで、事業化するかどうかを決める、というのが一般的な流れではないかと思います。

 けれどNOTEの場合、宿泊施設で利益を得ることが目的なのではなく、その意義が全国の田舎を元気にするという、建物の再生と地域の活性化にあるため、その地域で事業が継続できるように数値を設定します。従来の宿泊事業とは根本的に考え方が異なるのです。

 ただ単に何となく懐かしい、その土地の文化に触れられるから、ということではなく、たとえ1日だけでも、その土地に暮らすという体験ができる。また、文化を守るという社会課題に貢献しているという気持ちになれることも、ポイントなのかもしれません。そんな人たちが一定数いて、そこをターゲットにしているということなのでしょう。

 そして再生に当たっては、決して綺麗にリフォームするのではなく、できる限りその建物が建てられた頃の状態に戻すことで、昔の生活が見えてくるのだと言います。だから、新しく導入した設備はエイジング、つまり昔風に見せるための加工はせず、あえて新しいものであると分かるように改修する。そうすることによって、懐かしいものと新しいものの違いを明確に伝えることができるのだと。

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