ニュースと体験から読み解くリテール未来像 #43

商業施設の案内所もDX。AI導入でスタッフ負荷を40%に軽減、対応数も増加

前回の記事:
【展望】コンビニ、スーパー、ドラッグ、2022年の業績はどうなるのか?
 

商業施設の案内所には業務量のバラつきがある


 ショッピングセンターや百貨店といった商業施設には、必ず案内所(インフォメーション・センター)があります。その案内所には、来店客の様々な質問・要望に対応する従業員がいます。

 多岐に渡る来店客のニーズは年々、多様化しており、場所の案内だけでなく、商業施設が展開するカードやアプリなどの質問も来ます。さらに、コロナ禍で一時的に沈静化していますが、外国人対応も増加していました。

 また、来店客が少ない時間帯は数名配置されたスタッフが手持ち無沙汰になる一方で、混む時間はどんなに手際良く対応しても、行列ができてしまうのが案内所の業務です。

 筆者は常々、案内所のスタッフの負荷を平準化できないものかと思っていました。例えば、コロナ禍で対面接客にストレスを感じたり、家庭の事情で出勤が急遽難しくなったりした従業員への解決策として、リモート接客システムを平行稼働させてみてはどうでしょうか。

 案内所の業務だけでは、時間当たりの業務量の平準化は困難です。さらに、業務のピークに合わせた人員配置も難しいため、セルフ会計型の直営小売店舗やカフェなどの飲食店と併設にして、手隙時には売り場メンテナンスやテーブルクレンリネス(清潔な状態の維持)なども考えられます。
 

相鉄ジョイナスのDX取組み


 筆者は日本ショッピングセンター協会で「DX推進のハウツー」という連載をしています(2021年7・8月号~2022年6月号)。そのご縁で講演を時々しています。その際に、相鉄ビルマネジメント 運営事業部 横浜営業所所長の木村充宏氏の講演を聞きました。

 空席案内のサービスである「VACAN」などさまざまな導入事例の中で、筆者の目から鱗が落ちた取り組みがAI接客システム「AIさくらさん」の導入でした。

 
※写真は筆者撮影

 「A Iさくらさん」はティファナ・ドットコムが提供しているA I接客システムです。タッチパネル、または音声で問い合わせることで、A Iが音声と文字で回答する仕組みです。この手のアニメ絵キャラクターによるA I接客は様々な場所でPoC(実証実験)が行われています。

 筆者は実際にいくつも体験してきたのですが、正直なところ実験止まりという印象を受けることが多かったです。有人案内所の前に置かれたものは誰も使いませんし、完全無人にした場合も決まったパターンの問い合わせ以外は対応できないからです。実際、筆者以外に使っている人を見ることは、まれでした。

 木村氏によると、AI接客システムを導入した目的は「お客さまの利便性向上」と「インフォメーションスタッフの就業環境改善」です。ジョイナスの有人中央インフォメーションはとても人通りの多い地下街部分のフロントにあり、1カ月あたり2万5000人の問い合わせを受けていたそうです。

 おそらく週末には1日1000人を超える問い合わせに対応していたのでしょう。商業施設の質問だけではなく、鉄道・バス・観光地への行き方など多岐に渡る問い合わせがあることで、問い合わせの列が常態化していたそうです。

 常に列がある状態で、千差万別な問い合わせに対面で対応する従業員の負担はとても大きかったことでしょう。来店者からしても、トイレの場所を聞く程度の簡易なことを聞きたくてもなかなか対応してもらえないという状況です。諦めて近所の店で聞く人も多かったと推測します。

 この状況を改善するために、中央インフォメーションの場所に「AIさくらさん」を設置して、有人カウンターは地下街の50m奥に移設したそうです。これにより、問い合わせの窓口を増やしつつ、有人カウンターでは個々の来店客に時間をかけて相談できる環境になったのです。

 木村氏によると、導入目的であった「お客様の利便性向上」「インフォメーションスタッフの就業環境改善」の両方が達成できたとのことです。そして、有人インフォメーションの負荷を元の40%(10,000件/月)に軽減しつつ、トータルでの問い合わせ対応数は増加しているとのことでした。素晴らしい成果だと思います。

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