ニュースと体験から読み解くリテール未来像 #44

なぜ眼鏡店のJINSは、異業態の「パン屋」を店舗に併設したのか

 

「考える技術・書く技術」で売場をOPQ分析する


 JINSがパン屋を併設した狙いについて、筆者の頭の中にいくつかの考えか浮かびましたが、ちょうど日本オムニチャネル協会の分科会で「売場における顧客体験」を分析する手法にOPQ分析が使えないかと考えていましたので、これを題材に議論をしました。

 「新版 考える技術・書く技術―問題解決力を伸ばすピラミッド原則」という書籍があります。原題は“The Mint Pyramid Principle”で、邦訳副題にもある「ピラミッド原則」による作文手法の教科書です。最初の版は1973年に出版され、本書は96年版の邦訳です。版を重ねているロングセラーで、世界中の多くの読者に評価されています。

 ところが、日本人がこれを読んで使いこなすのは難しいのです。なぜでしょうか。日本語の8割には主語がありません。また、英語などと比較して接続詞を安易に使えてしまいます。この日本語特有の問題が、考える行為そのものの足を引っ張ってしまうと、邦訳者の山崎康司氏は考えました。そこで山崎氏が日本人用に書いたのが、「入門 考える技術・書く技術 日本人のロジカルシンキング実践法」です。OPQ分析は、この本に出てくる手法です。
 
 読み手の視点で「望ましい状態はどういう状態なのか(O)」を考え、「それに対する現状(P)」と「望ましい状態とのギャップを認識したうえで読み手の疑問(Q)」を考え、「ギャップに対する解決策(A)」を考えます。

 ここでの「A(Answer)」が文章の主メッセージとなります。文章におけるピラミッドの頂点がこのAになります。文章を書くためではなく、問題解決のためにOPQ分析をするのは解決策であるAnswerを考えるためであり、筆者も思考が散らばった時に利用する分析手法です。
 

なぜ、眼鏡屋がパン屋を併設するのか?


 さて、議論の結果をまとめたものが次の図です。



 眼鏡店においては「眼鏡店に買わないときでも寄ってほしい」という要望があります。しかし、生活者の立場に立つと「眼鏡を買う時以外は行かない」店舗です。

 「どうしたら眼鏡を買わない時にも眼鏡店に立ち寄ってもらえるだろうか?」という課題を解決する手段が「来店頻度の高い業態・サービスと組み合わせた店にする」ということになります。

 眼鏡店を来店頻度の高いパン屋と併設することによるメリットは、上の図で記載した通りです。結論として、眼鏡屋とパン屋の組み合わせに限らず、来店頻度の低い高単価商材を販売する小売業においては、来店頻度の高い業態・サービスと組み合わせた店にすることが有効な可能性が高いと考えます。

 OPQ分析に興味を持たれた方は「入門 考える技術・書く技術 日本人のロジカルシンキング実践法」を一読されると良いと考えます。また、こういった議論にご興味のある方は、「日本オムニチャネル協会」についてもご覧ください。

 JINSの狙いと同じかはわかりませんが、店舗を視察した後にしっかりと考察をすることで、応用が効く知見に昇華することができるのです。スポーツ選手が本を読むだけではなく、練習や実戦で技術を鍛えるように、ビジネスパーソンも知識を入れるだけではなく、考え抜くことで知恵を鍛えることができると考えます。
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