関西発・地方創生とマーケティング #04
鉄道会社のマーケティングに必要なことは、地方創生である【近畿日本鉄道 能川一太】
2018/08/29
- 地方創生,
稼働率が3割アップした、志摩観光ホテルの試み
地方には広告に使えるお金がふんだんにあるかと言えば、そうではありません。では、どうするか。PRを最大限に活用するとはいえ、全くお金がかからないと言えば、決してそうではありません。ただし、やり方次第かもしれません。例えば、先程触れた観光特急「しまかぜ」の終着駅がある賢島には、2016年の「G7伊勢志摩サミット」のメイン会場となった、志摩観光ホテルがあります。ちなみにサミット前後では、稼働率が3割も上がっています。そして、そこにはサミット開催だけでなく、ホテル側の努力もあります。
まず、志摩観光ホテルの強みは、「食」と「歴史」に培われたサービスです。
食に関しては、地元伊勢志摩の食材を中心に生み出されたフランス料理を「ローカルガストロノミー(地方の、食と文化の関係性の考察)」として情報発信した結果、特にサミット後に総料理長への取材依頼が増えたそうです。ホテル側としても、ホテルや地域のためになる依頼については、積極的に受けるようにしています。
また、来ていただけるからこそ、最高のサービスでおもてなしをして、リピートに繋げ、さらにそこから口コミで広がっていくことができます。
おもてなしの一例ですが、リピーター顧客については、その担当者がどこに人事異動しようと、顧客が訪れるたびに接客に回っているようです。また、どなたかのご紹介で一度ご利用した方が、次にご自身で予約されたとしても、リピーターとして対応するなどの仕組みもあるようです。そういう顧客を大切にする風土は、他のホテルに比べても強いように思います。
伊勢志摩サミット時の総支配人に聞くと、「ホスピタリティの源泉は、伊勢神宮を詣でる人が共通して持つ“感謝”の気持ち。それが志摩地域で広まっているため、接客業に向いていると考えている。つまり志摩の人々は神宮の信仰を通じて、自分がそうした仕事をしていること、これまで生かされてきたことに率直に感謝し、それがお客さまに高いホスピタリティとして評価されているのではないか」と話していました。
志摩の人は、人に優しい、自然と人のために動く、志摩スペイン村の支配人として数年間志摩に住んでいた経験から、私も同様に感じます。
こうした取り組みやスタッフの思いのお陰で、連休中などはチェックアウト時に一年後のご予約をされて発たれるお客さまも多いようです。さらに地方のリゾートホテルならではの取り組みとして、星空観察会や伝統工芸体験、そしてホテルの歴史やサミットのことなどを説明して回る館内ツアーなど、滞在中にお楽しみいただける、様々なアクティビティを用意しています
その結果、皇族や政財界、文化人などのお客さまも多く、さらにはG7伊勢志摩サミットのメイン会場に選定されるなど、独特のポジションを確立しています。
そして今では、賢島はヒラマツやアマン系列のアマネムなどが進出する高級リゾート地となり、その地方のブランド価値を高めることができています。
デザイン力向上で、スタッフのやる気も向上
もう一つは、沿線にある、とある老舗企業のケースです。数百年続く、確かな技術に基づく商品を提供しているものの、今後も業績が安泰とは言えない中、著名なクリエイティブディレクターに依頼してパッケージデザインを一新したところ、業界のトレンドに反して売り上げが伸びたそうです。
興味深いのは、デザイン変更が、お客さまに対してだけではなく、従業員にも好影響を及ぼし、会社の風土まで変わったという点です。現場の「売る気」ほど、大切なものはありません。デザインの力の凄さでもあります。
ただ、デザインを変えたことが売り上げにつながったとは言え、商品が良いことが絶対条件であるのは間違いありません。やはり、マーケティングにはプロダクトが大事なのです。
そして、この企業も、やはり広告宣伝にあまり費用はかけていません。地方には宣伝に頼らなくても売れる素晴らしい商品があるのです。
鉄道会社は、沿線の企業と連携しながら、またさらに地方の良いものを発掘して、それを発信し、共に成長していかなければならない、それが地方創生に繋がると思うのです。
そして、このように鉄道会社にとって、地方企業が元気になること、すなわち地方創生は、今後ますます大事になるのです。鉄道会社も、さらに積極的に推し進めていく必要があります。
皆さんも電車に乗って、お酒でも飲みながら美味しいものを食べに、非日常の世界へお出かけしませんか。
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