関西発・地方創生とマーケティング #37前編

エスカレーターではなく、つい階段をのぼってしまう。消費者が行動したくなる「仕掛け」がマーケティングに使える【大阪大学大学院 松村真宏 教授】

 

仕掛けには、人の好奇心を使う


大阪大学大学院 経済学研究科 教授 松村真宏氏

 松村さんによると、仕掛けは「人の好奇心を使って、ついしたくなる行動を引き出すもの」を指すそうです。そして「仕掛学」は、松村さんがつくった言葉で、体系的に仕掛けを理解しようと考え、学問分野として立ち上げたもので、今までに収集した仕掛けの数々を体系立てて整理した新しい学問です。

 仕掛学の基本は、FAD要件(Fairness:公平性、Attractiveness:誘引性、Duality of purposes:目的の二重性)に整理されます。

 ひとつ目は「Fairness(公平性:だれも不利益を被らない)」です。人に商品やサービスを無理やり購入させるのではなく、しっかりとその便益を理解して購入して満足できている状態のことです。自分が欲しくないものを「安いから」、あるいは「皆が持っているから」と流されて購入してしまうことは公平性に欠けます。本来は、自分がそれを必要としているから購入するのであって、提供する側と受け取る側に公平性がないといけません。

 2つ目は「Attractiveness(誘引:行動が誘われる)」です。行動変容を強要するのではなく、自分の意志で自由に行動を選択できることが必要です。

 3つ目は「Duality of purpose(目的の二重性:仕掛ける側と仕掛けられる側の目的が異なる)」です。人は「買ってください」と言っても買ってくれません。仕掛ける側は「買ってほしい」と思っていても、仕掛けられる側に対しては違う目的をアピールする必要があります。本来とって欲しい行動を伝えても行動が変わらないときは、違ったアプローチで攻めていきます。

 たとえば、男子トイレにある「的の付いた小便器」が例としてあげられます。「ついつい狙いたくなる」という心理をうまく利用していて、知らず知らずのうちにトイレをきれいに使うことに貢献しています。これが、正論をそのまま伝えずに、違った切り口で興味を引くアプローチです。「目的の二重性」と言えるでしょう。
  
トイレの的(写真:松村真宏教授提供)

 このように、「ある人の課題や問題の解決に向けて、人が楽しみながら行動するように仕向けることが仕掛けだ」と松村さんは言います。また、もうひとつ「ゴミ」に関する事例を紹介して下さいました。「ゴミは、ゴミ箱に」という正論を説くのではなく、ゴミ箱の上にバスケットゴールを置くと、ゴミを捨てるという行為を「シュートする」という遊びに変えることができます。つまりゴミを捨てるという目的が、遊ぶという目的に置き換わり、結果的に楽しみながら「ゴミは、ゴミ箱に」という課題が解決されています。
  
ごみ箱のバスケットゴール(写真:松村真宏教授提供)

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