関西発・地方創生とマーケティング #38

「八代目儀兵衛とセブン-イレブン」「koyoiとスマドリ」。企業間コラボレーションの極意とは?

 

自分たちはまったく知られていないと自覚することの大切さ


次に、石根さんにSEAMの社外コミュニケーションについて伺いました。

石根 私たちの会社はお酒の事業で、「koyoi」という商品を出したのが2021年9月と、まだローンチから2年も経っていない社員4人の会社です。お酒ブランドのコンセプトやレシピ開発からEC設計、セールス、SNSを活用したプロモーションまで、社内でほぼ一貫して行っています。
 
SEAM 代表取締役
石根 友理恵 氏

広島県出身。神戸大学国際文化学部卒業後、(株)サイバーエージェントに入社し、企業のSNSを用いたwebマーケティングサポートに従事。創業期の(株)ワンオブゼムに転職し、マーケティング部門の立ち上げを行う。2017年に株式会社SEAMを設立。「ココロを満たしカラダにやさしい食体験を創る」をミッションとし、低アルコールD2C事業を展開。ファーストブランドkoyoiを切り口に、様々なコラボを実現しながら低アルコール市場のトップランナーを目指す。

BtoCのビジネスでは、基本的にWeb広告で集客して、購入してもらい、LTVを合わせていくという方法が主流だと思いますが、我々は初期フェーズではWeb広告を捨てるという意思決定をしました。その代わりにPRで事業を伸ばすことに注力しています。それを1年半かけて積み上げて、今は様々なメディアに取り上げられているというところが「koyoi」のマーケティングのポイントです。

2022年11月にフジテレビ系列で放送されていた、話題の女性の人生を7つのルールで映し出すドキュメントバラエティ番組『セブンルール』に出演したのですが、メディアの方との関係において私たちがいつも気をつけているのは、まず自分たちはまったく知られていないのだと認識することです。そう自覚することが、メディアとのコミュニケーションの始まりだと思っています。

その上で、情報や商品が溢れている世の中でどのように私たちのことを知って興味を持っていただくのかというと、会社や事業のプロセスで起こるすべてをストーリーとして設計していくことだと考えています。

そもそも会社は、ストーリーだと思うのです。人がいて、そこにいろんな切磋琢磨があって、ひとつのものをつくり上げている。それ自体がストーリーで、どの会社にも絶対あると思います。それを漫画のように組み立てて、自分の頭の中でしっかりストーリー化していこうと意識しています。
  

能川 それは、石根さんがひとりで考えて取り組んでいるのですか? それともチームメンバーと一緒にディスカッションしながらですか?

石根 私がひとりで考えて取り組んでいます。たとえば、商品開発の担当者が取り組んだことには必ず理由があり、ストーリーがあるんです。それを第三者に伝わるように言語化するのが私の仕事ですね。

能川 その言語化することの大切さとスキルはどこかで学ばれたのですか?

石根 はい、キャリアとしてはWebマーケティングと広報に取り組んできたのですが、スタートアップの広報では自社は無名であるという前提から入ります。広報も広告も営業も同じだと思いますが、第三者にいかに価値を伝えて、それを感じてもらうかが重要です。

具体的には、ストーリーの内容自体が魅力的でないといけないので、すべての行為や事業の独自性をしっかり伝えていくという、当たり前のことに徹底して取り組んでいます。「koyoi」というクラフトカクテルの創業者である私の想いと、商品開発での独自性をきちんと説明できるようにしています。
 

本質的な価値を独自性のヒントに


石根 たとえば、商品設計やものづくりに関しては、「シーンペアリング」という言葉をつくりました。お酒を飲むときは、お酒自体の美味しさもありますが、どういう環境で誰と飲むかで、美味しさが変わると思うんです。お酒の本当の価値は「シーン」に紐づくと思っていて、私たちの商品づくりは、まずターゲットである20代や30代の女性約100人への、お酒を飲んでときめくシーンについてのアンケートから始まるんです。

すると、「誕生日にスイートルームでパートナーとゆっくりしながら、お酒を飲みたい」など具体的なシーンが出てくるんです。そういったシーンをピックアップして、それに合うお酒の味をつくる。味からつくるのではなくシーンや情緒からつくるという方法をとっています。それを私たちは「シーンペアリング」と定義して提供しています。

能川 ホテル業界にも料理とワインを合わせるペアリングがありますが、それとは違って、「シーン」から味をつくるというのは初めて聞きました。どういう経緯で発想されたのでしょうか。
 
近鉄都ホテルズ 取締役 シェラトン都ホテル東京 総支配人
能川 一太 氏

シェラトン都ホテル東京総支配人。それまでは近畿日本鉄道で、駅や美術館などの設計、建築、観光プロモーション、志摩スペイン村の支配人、レジャー事業を、また近鉄都ホテルズで、マーケティングを担当。

石根 お酒には非常にたくさんの種類があって、競合他社はマスマーケティングに強いんです。その中で消費者に私たちの商品を手に取っていただくためには、お酒の本質的な価値は何か、そして私たちはどこでその価値を出せるのかをすごく考えたんです。その結果、お酒を飲む「シーン」を起点にすることにしました。

現在15種類の商品すべてに細かいシーンがあります。それぞれのシーンにちなんだ小説のようなものを私が書いていて、そこを独自性だと捉えています。その「シーンペアリング」という発想を言語化することで、たとえば日経MJさんの一面に取り上げていただいたり、マーケティングのメディアで取材いただいたり、皆さんに知っていただく機会につながるんです。

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