関西発・地方創生とマーケティング #39

採用倍率20倍、“おせっかい”でお客さまを虜にするホテル「Nazuna京都」の裏側

前回の記事:
ターゲットは若者なのに値段は1泊15万円。SNSで独自の価値を伝える「Nazuna京都」の正体
 インバウンド需要が戻り、海外からの観光客が溢れて、ますます勢いを増しているのが京都の宿泊業です。老舗をはじめとする高級旅館・ホテルが立ち並ぶ中、日本のよさを感じられる巧みなマーケティング施策で独自の価値を創出し、新たなブランドを築いているのが「Nazuna京都」を運営するNAZUNAです。

「Nazuna京都」は、昔の町並みが目の前に広がる町家が残った一角を丸ごとリノベーションした宿泊施設です。1泊2食付き2人で10万円ほどするので、ターゲットとする20代や30代にとっては決して安くはない価格設定です。それにも関わらず高稼働を維持していることに、同じホテル事業者として興味深く感じていました。

 今回の後編では、京都の町家をリノベーションした宿泊施設を提供するNAZUNA 代表取締役の渡邊龍一氏(2024年4月1日付けで、同社 代表取締役に就任)に、「Nazuna京都」のサービスの基本と採用や社内の組織など、高級旅館で若いお客さまを虜にできる戦略について詳しく聞きました。
 

サービスの基本は“おせっかい”


「Nazuna京都」のサービスの基本は“おせっかい”です。お客さまが望んでいようがいまいが、スタッフがそのお客さまにしてあげたいと思うことをするそうです。まさに、おせっかいですね。

 しかし、すべてのお客さまに対してやみくもに何かをするのではなく、しっかりとリサーチした上で取り組んでいます。たとえば、宿泊やレストランの予約にしても、事前にGoogleフォームのアンケートに答えなければ、予約ができないほど徹底しています。アンケートに答えるのが煩わしくてクレームが入らないかが気になりますが、今までに一度もそういうことはなかったそうです。

 先日、あるブランドで買いものをしたときに、勧められるがままに顧客登録したのですが、あらためて振り返ってみると、自分がこのブランドの顧客になることの嬉しさ、誇らしさのような気持ちが登録を促進させたのだと思いました。

 ブランド側に立てば、お客さまに自分たちの企業やブランドが好かれているかどうかは非常に重要です。そういう意味では、利用する人にとって「Nazuna京都」は憧れの宿であり、そうした関係をお客さまと築けていることが、うまくマーケティングができている証なのだろうと思います。

「Nazuna京都」の工夫はこれだけではありません。お客さまのことをよく知ってサービスに活かすため、チェックイン時には30分ほどかけていろいろとお話を聞くそうです。その会話の中でお客さまの特徴を捉えながら、お客さまの好みを知って、おせっかいのサービスに活かします。

 このようなコミュニケーションを大切にしている結果、お客さまから接客したスタッフ宛に部屋のメモ帳を使った手紙が多く届くそうです。そのため、チェックイン時の接客時間だけは絶対には譲ってはいけないし、むしろもっと時間を伸ばしたいほどだそうです。

 多くのホテルでは利用客はフロントに並び、立ってチェックインしますが、「Nazuna京都」ではソファーに座りながらゆっくりと会話するので、いろいろな話を聞くことができるのでしょう。お客さまのことをよく知ることがいいサービス提供につながるので、本来はそうすべきですが、一般的にはオペレーションのことを考えるとなかなか実践できません。お客さまの情報を活かしたマーケティングをしようとしていないのが実情だと思います。これはとてももったいないことだと思います。
  
四条大宮付近の一角にあるNazuna京都 椿通の外観


築110年以上の町家が立ち並ぶ約1400平米のL字型路地一体をひとつの宿に改修


Nazuna京都 チェックインラウンジ

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