リテールメディアコンソーシアム #04

リテールメディアの取り組みは、働き方、文化、人材育成のすべてに紐づく【リテールメディアコンソーシアム座談会・後編】

 

商材、カテゴリ、業態によってリテールメディアの敷居の高さは異なる


杉浦 当社では、2023年に初めてマーケティング本部を設けました。もちろんマスへの対応も重要である一方、昨今の環境変化も鑑みてOne to Oneのマーケティングも強化しないといけないと考え始めたことがきっかけです。

リテール業界も、世の中の環境変化に合わせて柔軟にスタイルを変えていかなければならないと考えています。継続して購入いただけるようなプロモーションのあり方を再考することで、原資の使い方も変わってきます。そして当社に限らず、リテール全体として変わってきている気がします。
  

島川 海外と比べると、日本はリテール様の数も多いですしブランド数や商品数も非常に多いです。ひとつのブランドを継続的に販売し、ファンをつくっていくよりも、売上が悪いとすぐにパッケージを変更したり、サイズを変えたりなど、改廃が多いのが特徴だと感じています。ひとつのブランドと向き合って投資し、メーカー・リテール・流通が一緒に商品を育てていこうという流れがつくれるといいですよね。

杉浦 私もそう思います。細分化した役割の中で商品開発をする事が多く、どうしても担当者は自身が担当する種類の商品の中で改廃を続けてしまうのだと思います。また、マーケットでは実はそこまでニーズのない商品をずっと残してしまうケースも正直ありますよね。一方で、みんな一生懸命に向き合って仕事をしているので一概に否定できないんです。

大村
 会社の方針の下、目標を純粋に追いかけて頑張っている人ですからね。
  

杉浦 リテールメディアに取り組むのは、まさにメーカーさんにおいてもリテールにおいても「人」なので、頑張っている人に対して「それ意味ないから」と、言いづらいこともありますよね。

八木 「人」が動きやすい業務設計と「人」のがんばりを評価する制度の両方が存在することによってリテーラーとメーカーがお客さまに向けて協働するリテールメディアが育つと感じています。業務設計と評価制度をセットで考えることによって、異なる会社の「人」の知恵や知見が組織内で継続していくのではないでしょうか。

杉浦 そうですね。結局、動くのは「人」です。「人」の部分を考慮せずに仕組みやサービスだけを整えようとしても、なかなかうまくはいきません。

島川 リテールメディアの一番のハードルになるかもしれないところは組織構造だと思います。販促や広告などのセクショナリズムを関係なく横断的な意思決定ができるのは、その部門を横断したトップになる。ブランド、コミュニケーション、営業が異なる役員の管轄であればその上の社長でしか判断できない、などということもあり得ますよね。

中村 実はメーカーも流通も、主語は「お客さま」と必ず言います。その一方で、実はLTVを横串で見ていくような中間のKPIがほとんどありません。メーカーはどうしても、ビールはビール、チューハイはチューハイ、ワインはワイン、もしくは飲料は飲料といったブランド単位で測ります。たとえば「セブン-イレブンのLTVが高い人はどんな人か?」と横軸視点でオペレーションを考えていく視点が欠けているのです。

杉浦 そこを解決するために、我々セブン-イレブンのマーケティング本部では、どのような商品が売れるかという視点ではなく、お客さまにご来店いただくためには何が必要かを顧客視点で考えるようにしています。
  

このような考え方は、まずは、トップダウンでしっかりと方針を示す必要があると思っています。これはリテールメディアも一緒で、リテールもメーカーさんも、「この人がやると言っているんだから、まずは取り組んでみよう」とならない限り、現場で有用性を感じてやろうとなっても、なかなかスムーズに進まないと思います。

島川 それは満場一致で間違いないと思います。そのため、このような議論の場が非常に重要だと考えているんです。

八木 メーカーの皆さんは、リテールメディアがきっかけでブランドに横串が刺さる可能性をどのように感じますか。

中村 直接的にリテールメディアがきっかけではないですが、当社はプロダクトアウトではなくマーケットイン、顧客起点で考え、ブランドごとではないLTVの発想で考える流れになってきています。

島川 当社はあえてクロスブランドではなく、もう一度カテゴリやブランド軸に絞りつつお客さまへのアプローチを見直そうとしています。ただ、リテールメディアが広告や販促といったセクションに分かれていた部分を崩すよいきっかけになるのではないかと考えています。

杉浦 ただ、私の肌感だと、全体で見るとまだそのような動きは少数派ではないかと感じるのですが、皆さんいかがですか。

中村 それはチャネルの特徴もあると思います。たとえばドラッグストアであれば、化粧品や医薬品のウエイトが高いので、単価もある程度高く利益率も高くなります。そのため、リテールメディアに対するROAS(広告の費用対効果)がしっかり取れるので、活用することが早くなります。

しかし、当社のような日用品・消耗品メーカーは単価が安いので、ROASを回収するためには量を売らないといけない、という発想になります。すると、どうしても「配荷率が」「販促が」といった話になるんです。リテールメディアに対しても、コストがある程度高いと、出せないということになります。リテールメディアに対する敷居の高さがメーカーによってもカテゴリによっても、業態によっても若干違うのだろうと思います。

杉浦 それはおっしゃる通りですね。リテールの特徴によって扱っているカテゴリも当然、違ってくるので、バランスや相性とかで、リテールメディアが進む、進まないということはあるかもしれないですね。

中村 我々サントリーもLTVを高めるために、「個」としてお客さまを捉えることは取り組んでいくものの、結果的に商売としてはある程度セグメントしないと成り立たないと思います。
  

テレビCMなどのマスメディアだけの一本槍のマーケティングではなく、パーソナライゼーションしながら採算が合うセグメントにしていくことが重要だと思います。ただ、マスとパーソナライズする分岐点ってどこなのか、というところを一番悩んでいます。そこはまだ解が出ていないので、これから勉強していかなきゃいけないところかなと感じていますね。

島川 なるほどですね。仮に何らかの基準で顧客セグメントを作成しても、それがその都度変わってしまえば、1年後はまったく異なるセグメントが生まれていることもあります。マスとパーソナライゼーションの中間を定義して継続的に計測していく課題は弊社も抱えています。

杉浦 これだけライフスタイルがものすごい勢いで変化しているので、考えたペルソナやクラスタ自体が悪いのではなく、変わってしまうんですよね。

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