ニュースと体験から読み解くリテール未来像 #59

小商圏でも利益を出せる北海道「DZマート」は、今後求められる小売業の姿かもしれない

 

徹底したローコスト経営


 店舗を視察すると、運営コストを低減するための工夫を徹底的に行っていることが見て取れます。

 発注量・作業量を平準化して店舗運営効率が向上するEDLPをベースとした上で、袋菓子やカップ麺などは棚に整然と陳列するのではなく、ワイヤーバスケットに投げ込み陳列をする。同じ用途機能のSKUを絞り込んで、単品のフェイス数を確保するといったローコスト経営の店舗でよく見かける工夫は当然されていました。

 牛肉同様に、鮮魚コーナーも刺身は揃えずに、焼いてすぐに食べられる切り身に絞っていました。
 
 店頭で数十分視察しただけでは見えない部分は、さきほど紹介したYouTube動画や公式ホームページを見るとわかります。ダイゼンでは、店舗運営に関わるすべての作業項目と所要時間をリストアップして、約900あった作業項目を半分の450にまで削減しました。そのためにサービスの取捨選択も大胆に実行し、お中元やお歳暮の対応、離島への宅配サービスなどを思い切ってカットし、店舗運営に専念しています。

 たとえば、小売業界の常識である「先入れ先出し」(賞味期限の早い商品が先に売れるよう陳列棚の前方に出すこと)は、新しい商品を並べる前に今まで棚に並んでいた商品を一旦取り出して、賞味期限を確認しながら後で戻す手間のかかる作業です。これをダイゼンでは、賞味期限を1カ月単位でとらえ、同じ月ならば問題ないとして撤廃しました。

 動画を見ると、菓子などは新しい商品が入荷しても以前入荷して陳列した商品はそのままでカゴの上や棚の前に補充しています。一方、精米日からの販売期限がタイトな米は先入れ先出ししていることがわかります。

 筆者が小売視察をした時には、来店客の買い物行動も注視します。その中では、棚の後ろに手を伸ばして賞味期限の長い商品をカゴに入れる客を頻繁に目撃します。店員が手間暇かけて先入れ先出ししても、1日でも新しい商品が欲しいという客は後ろから商品を取るのです。

 ダイゼンではこれを割り切って同じ月の商品は先入れ先だししないと決めたわけです。また、商品は夜間一括納品で、バックヤードではなく売り場に直接置きます。これを早朝に開店前品出しスタッフが品出しすることで、営業中2人体制を実現しています。営業中の品出しは、売れ筋商品の補充だけで済むわけです。開店前の早朝であれば、人前の仕事が苦手な方にもこなせるので合理的な作業分担といえます。また、営業中の品出しが最低限なので、品出しのカートが売り場を塞ぐこともありません。視察時も通路は広くキープされていました。

 店舗の作業を最小にするため、発注は自動発注を基本とします。とはいえ、急な需要の変化、ロスやトラブル等にによるデータのズレを原因とした欠品が発生します。これを本部で防犯カメラの静止画像をチェックし、欠品を発見次第、迅速に対応するなど、細部にわたる工夫が随所に見られます。

 これらの施策の結果、DZマートは人件費を大幅に抑えることに成功し、売上が少なくても利益を出せる体質を実現しました。これにより、人口1万人程度の小商圏でも出店が可能になったということです。

 DZマートは売り場面積や品揃えを絞り込むことで、生活必需品を中心に約6000アイテムを厳選して販売しています。徹底した効率化によって実現した、低価格戦略が同社の強みになっているのです。

 DZマートのもうひとつの特長が、積極的な出店戦略です。人口減少や高齢化が進む北海道の地方都市では、「買い物難民」が社会問題化しています。しかし、効率化を武器とするDZマートであれば、大手スーパーが二の足を踏むような商圏でも出店が可能になります。

「売上の低さが自慢になる」というのが、柴田社長の言葉です。無駄を徹底的に排除し、小商圏でも利益を出せる経営モデルは、これからの時代に求められる小売業の姿なのかもしれません。
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