関西発・地方創生とマーケティング #40前編

「靴下屋」タビオとDIY専門店・大都が実践、ビジネスをジャンプさせるクリエイティブな組織のつくり方 【ネプラス・ユー京都2024レポート】

 

クリエイティブ・ジャンプを生み出すものは


ーー 次に、クリエイティブ・ジャンプを生み出すものは何なのか、どうやったら生み出すことができるのかについて伺いました。

山田 色々な事業を仕掛けていく中で、何に向かってジャンプするのか。会社が目指す未来、いわゆるMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)とか、みんな会社に集まって何を目指すのかを明確にして、そこに向かってジャンプしようという、それを生み出していく組織とかカルチャーが最も重要なんじゃないかと思っています。

2014年に日本で初めてDIY専門店「DIYファクトリー」というお店を大阪の難波に出しました。翌年には東京の二子玉川にも。日本初のショッピングモールに出店した工具店、物を売ることを目的とせず、体験してもらうお店です。いろんなメーカーさんの商品を手に取ってDIYを体験する場所がないから、文化を体験するんだったらやっぱり場所をつくろうと。3つ4つ毎日、レッスンをやって、このお店って365日営業だから、年間1000以上のワークショップを、多分、世界で一番多くワークショップをやった会社だと思います。すると、全国のホームセンターさんが視察に来て、日本中にそっくりな売り場ができました。でも、これはこれでいいんです。僕たちが目指す未来に向かっているから。みんなこっそり写真撮影するから、「写真撮影歓迎」というポスターも貼りました。「同業者も撮影大歓迎」って貼って、どんどん真似してくれというようなお店をつくったわけです。
 

日本人って、「したいと思っているけどやったことがない」という人が圧倒的に多いです。なぜかというと、やりたいアイデアが思い浮かばない。だから、そういうアプリをつくりました。 2018年に作ったアプリの名前が「Stayhome」。すごいでしょう(笑)。残念ながら2019年にサービスを停止するんですけど、これもうあと2年やっていたら、爆発したと思うんです。

組織のカルチャーとしては、全員イングリッシュネームで呼び合うという文化を十数年前からやっています。みんな僕のことを社長ではなく、ジャックって呼ぶんです。「さん」も「くん」も「ちゃん」もない。なんでそんなことやっているのと、よく聞かれるんですけど、「社長」なんて呼んでいる国は日本くらいなんですよね。

それこそがヒエラルキーだと思っていて、すでに階層ができています。Appleの社員はスティーブ・ジョブズのこと「スティーブ」と呼ぶし、Facebookの社員はマーク・ザッカーバーグのこと「マーク」と呼ぶ。そういう意味では僕たちはフラットに言い合える、Googleの言ういわゆる心理的安全性の高いチームにしたいという思いがあって、十数年前からそういうカルチャーにしています。クリエイティブ・ジャンプという意味では、「こういうことを言ったら責められるんじゃないか」という組織では、当然いいアイディアも出ないだろうと思います。模倣できないカルチャーが会社の強みです。
 

ーー 山田さんによると、クリエイティブ・ジャンプを生み出すには組織カルチャーが一番大事だとのこと。そのために全員がイングリッシュネームで呼び合っているという、一見変わった文化をお持ちです。でもその目的はヒエラルキーをなくすこと。そうでなければいいアイデアも出ないだろうという意見でした。次に越智さんに伺いました。

越智 事業にある程度の失敗はつきものと思うのですが、精度をいかに上げようかと考えてきました。大事なのは、どんなことにでも、いわゆる「遊び」の要素を入れるということです。少数精鋭で意思決定のスピードを上げて、実績を重視していく。これは、スポーツチームの戦術です。今の世の中、実績を見ることが避けられているような気がしますが、問題が起きた時に、それが個人の責任になってしまうのは、チームできちんとサポートしていないとか、そういう仕組みができていないからだと思います。原因が人であったとしても、個人の責任に持っていかない。実績を重視すると、個人個人ではなく、チームワークみたいなものが重要になってきます。

社内的にクリエイティブ・ジャンプを生み出すために、いくつか自分の中でも決め事があります。役職とか職種とか担当は気にせずに、たとえば、L’Arc~en~Cielさんと何かしようと思った時に、全社メールで、「ドエルの方大募集」と送ります。ドエルってわからないですよね。L’Arc~en~Cielのとんでもないファンを「ドエル」っていうんです。それに反応した社員は、そもそもオタク、ラルク好きなので、その人たちをプロジェクトに入れて、店頭販売員であろうが新人であろうが店長であろうが関係なく、チームをつくって、集まることも顔を合わせることもないけれど、LINEグループをつくって意見交換します。

このほど、FCバルセロナと契約したんですが、そういう時でも、「サッカー好きの人いますか、Jリーグ好きですか、ヨーロッパサッカー好きですか、どこのチームが好きですか」といった質問をメールでどんどん送り、結果的に残った人たち7人を1室に呼びました。「今から大事な話をするから守秘義務契約結んでくれ」と言ったら、全員が嫌がるので、「じゃあ言わない」と言って。それで皆、仕方なくサインしたら「バルサからオファーが来ました」となった瞬間、うわー!と。その靴下をつくるまでに、1回もミーティングで揉め事はなく、大体5分くらいで終わって、あとは先週のバルサの試合の話で盛り上がるというプロジェクトでした。担当とか関係なく、とにかく成功しようと、この靴下を売りたいと全員が一致団結して進みました。

その時に重要だと思ったのが、「こういうオファーが来た」と公にしなくてよかったということです。なぜかというと、公表すれば優秀な人達がもっとこうすべきだとか、ああすべきだとかうんちくを語ってきて、そうするとプロジェクトがだんだん弱くなってくるでしょう。好きな人だけで徹底的に最後までやり切ったのがよかったなと思います。
 

好きな人が徹底的にやり切るというのは、SNSも同じです。今日もこの会場にX(旧Twitter)担当者が来ていますが、会社はチェックを入れません。私の個人Xも同様です。自分で全て考えてやっています。独自のスタンスを見つけて唯一無二の自分らしい社長になろうと思っていて、それを社員にも分かち合える社風でいたいと思っています。

忖度じゃないですけど、世の中、「ちゃんとしなきゃ」というのが行きすぎてしまって、仕事が面白くなくなっているんじゃないかと思っています。企業のX担当者も、炎上したら自分で解決すればいいじゃないかと。炎上したら懲罰会議にかけられしばらく休みます、みたいなことがあったりしますが、あんまりよくないんじゃないかと。SNSを始めてから4年ほど経ちますけど、何も起きないですね。

山田 面白いですね。上場企業で社員が1000人近くいらっしゃるのに、承認を徹底してカットですからね。多数決で決めないってことですよね。

うちは国内30人しかいないですから、みんな自由にやります。でも1000人近くの企業でも自由にやっていると言ったら、今この会場にいる人も言い訳できないですよね、うちは上場企業だから、そんなことできませんなんて。

越智 上場企業として、した方がいいんじゃないかなということが、いつの間にか「しなきゃいけないこと」になってしまって、会社の独自性が失われて、どの会社も同じようになってしまっています。

山田 やりたい人にやらせるっていいですよね。やりたいって言ってるんですから。やりますよそら。



ーー 越智さんにとって、クリエイティブ・ジャンプを生み出すのは、「遊び」の要素を入れるということ。少数精鋭で意思決定のスピードを上げて、実績を重視していく。スポーツチームの戦術だとのことです。また、プロジェクトについては内容を公表したら優秀な人達がうんちくを語ってきて、だんだんプロジェクトが弱くなってくるので、「好きな人だけで徹底的に最後までやり切るのがいい」というのも、個人的には興味深いです。

では、その結果何が生み出されたのでしょう。次回はそこを振り返ってみます。

〈後編に続く〉
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