顧客体験をテクノロジーで拡張する~リテール業界のDXレポート~ #01

DXを通してパルコが目指す「10年後も変わらない価値」とは【新連載:J.フロント リテイリング 林直孝】

 こんにちは。私は現在、PARCO(パルコ)などのショッピングセンター(SC)や、大丸松坂屋など百貨店事業を展開する企業の持株会社であるJ.フロント リテイリングで、グループ企業のデジタル戦略推進を統括しています。特に私が新卒で入社したパルコではECの黎明期から参画し、テクノロジーの活用による顧客体験価値の最大化に努めてきました。この連載ではパルコでの経験を中心に、SCや百貨店においてテクノロジーがどのような思想や方法論のもとに顧客体験を「拡張」し、新しい価値提供につなげているかをご紹介・考察します。

 初回は自己紹介を兼ねて、スマートフォンの普及とともに2010年代初頭から本格化したパルコのWeb戦略について振り返ります。この10 余年の間に、SCや百貨店、そしてテクノロジーを巡る状況は一変しましたが、マーケティングにおいて真に重視するべきは「変わらないもの」だと考えます。それはいったい何でしょうか。読者の皆さんもご自身のお仕事をイメージして、考えてみてください。
 

パルコのコミュニケーション改革に参画

 
林 直孝 氏
J.フロント リテイリング 執行役常務 デジタル戦略統括部長

パルコ入社後、全国の店舗、本部及び、Web事業を行うグループ企業のパルコ・シティ(現 株式会社パルコデジタルマーケティング)を歴任。
2013年に新設された「WEBコミュニケーション部」にてPARCOのデジタルマーケティング及びオムニチャネル化を推進。
2017年より「グループICT戦略室」にて、ショッピングセンターのDX(デジタルトランスフォーメーション)を具現化するため『デジタルSC(ショッピングセンター)プラットフォーム』戦略の推進を担当。2022年3月よりパルコ、大丸松坂屋百貨店等の持株会社であるJ.フロント リテイリングでグループ企業のデジタル戦略の推進を担当。

 私は現在、J. フロント リテイリングでデジタル領域を統括しています。この領域に携わるようになったのはパルコ・シティ(現パルコデジタルマーケティング)への2度の出向と、その後のパルコでのWeb戦略プロジェクトがきっかけです。

 パルコ・シティは2000年にできたデジタルマーケティングの会社です。当時、日本では企業が次々とECをスタートし始めており、パルコ・シティも時流に乗り遅れずオンラインショッピングを立ち上げていました。インターネットの可能性に興味を持っていた私も、30代前半で手を挙げて出向し、2004年までの約4年間はオンラインショッピングだけでなく、インターネット広告やショッピングセンターのWebサイト制作などの業務も担いました。一度パルコの店舗営業の仕事を挟み、2009年から2011年まで3年間は、PARCO-CITYというECモールの運営を行うチームで働きました。

 再びパルコに戻った後は経営企画室の所属となり、お客さまとパルコのコミュニケーションを改革していくWeb戦略プロジェクトをスタートしました。

 このWeb戦略プロジェクトは若手社員を中心に、部門横断的にチーム編成されました。また、売り場とデジタルの関係、コミュニケーションなどについて、テナントの立場でどのようにしていきたいかという意見も重要だったので、当時、パルコのグループ企業で専門店事業を行っていたメンバーにも声をかけ、参画してもらいました。

 プロジェクトでは「こういう風に変えていきたい」という、さまざまな仮説が生まれました。これらを実行するために2013年に新設されたのが「WEBコミュニケーション部」です。それまでは宣伝部門の中でインターネットでの顧客コミュニケーションやホームページの運用などをしていたのを、Webコミュニケーショに特化した部門として独立させたわけです。

 今回は、この時期のパルコがどのような思考や試行錯誤を経て、その後のDX推進へと舵を切っていったかを振り返りたいと思います。ですがその前に、私がテクノロジーの活用に関して日頃、心に留めていることを2点、お話しさせてください。

マーケターに役立つ最新情報をお知らせ

メールメールマガジン登録