リテールマーケティング最前線 #01
SHIBUYA109のポップアップストアがAIカメラを導入、映像データからマーケティングはどう変わった?
因果関係を映像で可視化し信頼を得る
――イマダ キッチンではAIカメラからの情報を、具体的にどのようにマーケティング施策やクライアントへのフィードバックに生かしているのでしょうか。
渡貫 自由にトッピングができるソフトクリーム「HAPPY DECO SOFT(ハッピーデコソフト)」というポップアップを2024年の2月と6月に展開しました。2月に開催したときのお客様の滞留しやすい場所や、視線が集まりやすい場所、逆に人が少ない場所などを踏まえて6月は売り場のレイアウトを改善しました。
他にもショーケースに並べる商品を実際の商品ではなくサンプルに変更しました。2月は猫をモチーフにしたプリンが目玉の商品だったため、プリンをショーケースに展示していましたが、少しずつショーケースの商品が劣化してきてしまい、見た目としてもあまり可愛くなくなってしまっていたんです。そこを商品サンプルに変えることで色や形のトッピングをはっきりさせ、見た目上のクオリティを保つことで前を通るお客様の目にしっかりと止まり滞留してもらえるようにアップデートしました。
そもそも2月に実施したときも大好評でしたが、混雑する時間帯は製造が追いつかず1時間に10人程度しか提供できなかったり、一方で製造しすぎてロスが出てしまうという課題もありました。そこでAIカメラから取得した人流データやPOSデータを分析し、時間帯別でどこの稼働の波が1番高いのかを把握することで製造数を調整したり、整理券制を導入するなどしてオペレーションの効率化を図りました。
その結果、お客様がいらっしゃるタイミングに合わせて、ロスなく商品を提供することができるようになり、2月と比較して売上を積み増しすることができました。
日座 補足させていただくと、今までSHIBUYA109さんでも来館人数といった数字上のデータは取られていたと思います。ただ、その数字だけのデータをどう信頼していくかみたいなところが非常に重要だと思っています。
さまざまなデータを取っていたとしても、それぞれの意味や定義が曖昧な場合、現場のメンバーからすると肌感が合わなかったり、こんなはずじゃなかったというように認識のズレが生じてしまいます。
過去のデータは生かされているようで、実際には生かしきれていないことが多いです。その点、映像データを活用することで、いわばタイムマシーンのようにそのとき起きたリアルな現場の事象を見て振り返ることができます。
数字上のデータだけだと売上の波と来店人数の波があったときに、あくまでも仮説で因果関係を推測すると思いますが、現場で起きている事象をありのまま確認することができるので、マーケティング施策にも素早く反映できると思います。
――AIカメラの導入前と導入後では、他にどのような変化がありましたか。
渡貫 導入前はその日、その月の来館人数といった大きなデータは見ていましたが、商業施設なのでなんとなく月によって来館人数に波があったり、たとえば長期休みがある時期は増えるよね、減るよねという数字をただ見るだけになっていました。
導入してからは取得した数字上のデータを映像で可視化することで、説得力や客観性が増しました。これまでの経験則から推測していた部分の答え合わせができるようになったんです。店内の滞留率なども何パーセントかという数字をみつつ、実際に映像で見てみると、やっぱりこのようにお客様は動いているんだというのがはっきりとわかるようになりました。
加えて、出店いただくクライアントさんによってお客様の層や趣味嗜好も違うので、装飾するものや、内装のデザインも大きく変わってきます。必ずしもフォトスポットを設ければ人が集まるわけでもなく、クライアントさんのフードの種類やユニークさなど、いろいろな要素が絡まりお客様の反応は左右されるので正解がありません。
イマダ キッチンでは、ワンハンドで食べやすい商品を展開することが多いので、提供後すぐにお店から移動される方がほとんどですが、HAPPY DECO SOFTの場合は自由にトッピングしてデコレーションを楽しんでいただくことがポイントでもあったので滞在時間も長くなっていました。
各商材に適した動線設計をこれまで実施した中で蓄積した映像データをもとに、私たちで咀嚼しながらクライアントさんに提案できるので、これまでよりも提案に厚みや信頼を持たせることができるようになりました。