ニュースと体験から読み解くリテール未来像 #60

イオンのセルフレジ「レジゴー」利用客の客単価が高くなる2つの理由

 

母集団の中の標本が偏っているから


 2つ目の理由は、母集団の中の標本が偏っているという統計的な観点です。「統計の母集団」と聞くと難しそうに感じますが、できるだけ誰にでもわかるように簡単に説明します。

 スーパーに来る全てのお客さん、これが「母集団」です。1、2品だけサッと買う人から、週末の大量買いをする人まで、実に様々です。レジゴーを使う人たちは、この全体の一部です。この「一部」のことを統計学では「標本」と呼びます。

 標本とは、大きな集団(母集団)の中から選ばれた一部のグループのことです。例えると、大きな鍋にある具沢山のスープから、お玉で一杯すくい取ったものが標本です。

 普通なら、この一杯(標本)を見れば、鍋全体(母集団)の様子がだいたいわかるはずです。でも、時にはそうならないことがあります。これが「標本の偏り」です。

 レジゴーの場合、この「お玉ですくう」過程に偏りがあるのです。実際にレジゴーの利用客と非利用客を観察していると、弁当とペットボトルだけ買う人は、わざわざレジゴーを使わずに、普通のセルフレジに行くことが多いです。逆に、買い物カゴやカートいっぱいに買い物をする人は、レジゴーを使う可能性が高いのです。買い忘れがないかチェックしたくなったときに買い物カゴの中で下になった商品を探すより、画面をスクロールしたほうが楽という利便性も関係しているかもしれません。

 つまり、レジゴー利用者(標本)は「たくさん買い物をする人」に偏っているのです。これは、鍋の上のほうに浮いている具だけをすくい取るようなものです。そうすると、「このスープは、具だくさんだ!」と思ってしまいますが、実際の鍋全体はそうでもないということになります。
 

どの程度偏るのか試算してみると


 机上の計算をしてみます。スーパーの買上げ点数分布が次のようなグラフの状態のとき、全体の平均買上げ点数は9.86点です。


筆者作成 スーパーマーケットにおける1日の来店客と買上げ点数の例。縦軸:客数、横軸:買上げ点数
 
 5品以上買う来店客のレジゴー利用率を基準として、買上げ点数が1-2品の来店客が通常客に比して10%、3-4品目の来店客が通常客に比して50%しかレジゴーを使わなかったとしたときに、レジゴー利用者の平均買上げ点数は11.51点となります。

 レジゴー利用者(11.51)÷ 全体(9.86)× 100=116.73%

 レジゴー利用者の買上げ点数は全体平均よりも16.73ポイント多いことになります。ここでおいた数字はすべて架空のものですので、この通りの結果にはなりませんが、少なくとも数品しか買わない来店客の利用率が低いと標本として偏りがあることは理解しやすくなったと思います。

 レジゴーが便利なのは間違いありません。家族連れで子どもが楽しく操作している様子も見かけます。海外のように万引きや意図しないロスが原因で仕組みが複雑になったり、突然なくなったりしないことを祈ります。

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参考:1店舗あたり年間150億円以上売るスーパーマーケットWegmansはScan&Goアプリを廃止した https://ngunji.com/work/2022ny7/
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