関西発・地方創生とマーケティング #05

「マーケティングは市場起点、ブランディングは自分起点」中川政七商店13代目に聞くマーケティング

マーケティングとブランディングの違い

 マーケティングとブランディングの違いについて、中川さんに尋ねると、「マーケティングは市場起点、ブランディングは自分起点」だと言います。
 
 一般的に、マーケティングとブランディングの違いとしては、マーケティングが自分から魅力を発信するプッシュ型で、ブランディングが顧客を吸い寄せるプル型をイメージする方が多いと思います。

 逆に中川さんは、「マーケティングは、まず市場を見て、どこにチャンスがあるのかという市場起点。ブランディングは、自分たちがどうありたいのか、何ができるのか、何が強みなのかから始まるので自分起点」と語ります。

 そして、「自分たちの強みを打ち出すプロダクトアウトという考え方ではあるが、そこでのプロダクトは技術や素材だけではなく、もう少し“思想的なもの”」だそうです。



 さらに、「市場調査をしなくても、他社を含み、既存のブランドがどうなっているかは分かる。お客さまへのインタビューは一切しないし、寄せられた声も鵜呑みにはしない」といいます。そして、ことさら店舗廻りもしないそうです。

 では、どのように売上を伸ばすアイデアが出てくるのでしょうか。私自身、スペイン村で支配人をしているとき、事務所で考えても答えが出なかったことが、現場へ出てみると、文字通りアイデアが降ってくることが、何度かありました。

 中川さんも、「その感覚は分かる」と言います。「お客様の言っていることを、そのまま理解しても仕方ないけど、店頭でのお客さまの一挙手一投足を見て、感じとろうとはする」とのこと。

 そして、1人の動きが全てではないので、毎日行く必要はない。ただ、店長が毎日感じたことを書く日報は全て見て、売れている商品も把握する。そうやって空気は掴んでいたようです。

 それで外すことはないのかと聞くと、「清涼飲料など数100億円を売り上げなければならないなら、マーケットを精緻に見ないといけないけれど、工芸の世界は売上が数千万円あれば十分。その規模であれば、自分で考え抜いた商品を出し、ある一定の数の共感を得ることができれば十分勝算はある」といいます。

 お客さまを見て、合わせに行っても良いビジョンは生まれない。ここは勘所だそうです。

 それは、なぜか。「人が相手を好きになるときは、その人が自分を見てくれているからではない。気分はいいけれど、それ以上の感情はそこにはない。グッドだけど、ラブにはならない。人として、どうありたいかを考えているから、人としての魅力になる」、企業や商品もそれと同じだというわけです。

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