ニュースと体験から読み解くリテール未来像 #61
世界有数の超大手ドラッグストア「ウォルグリーン」は、なぜ不振に陥ってしまったのか
2025/03/19
インフレによる生活者の行動変化
次に米国の激しいインフレです。筆者の実体験の感覚として29年前には円高(90円後半)もあり、日本より物価は安かったです。米国のアウトレットモールで買い物をするのが楽しみだった記憶があります。
10年前(1$110~120円)には、日本の1.2~1.5倍の物価だったと思います。物を選べば日本より安く買えるものも多く存在しました。米国のインフレではなく、日本のデフレと為替レートによるものでした。
近年(1$150円前後)は物価が日本の2~3倍と感じます。為替レートの影響よりも米国のインフレが圧倒的です。日本でも直近1~2年は物価高が話題になりますが、米国のインフレは凄まじいです。
インフレになると、生活者はいつも使っている商品、もしくは許容できる範囲の品質である商品を売っている店舗まで出向いて買い物をするようになります。同一のNB商品をより安く販売するウォルマートやターゲットまで、少し遠出してまとめ買いという顧客行動を多くの生活者が行いました。
次に、NBと同等の品質・用途機能でより安価なPB商品を提供するAldiやLidlまで行くようになります(参考:ALDIの圧倒的生産性の工夫、ティーン向け雑貨店fiVe BELoW_NY視察ツアー 2022年Part6)。
貧困層になると、多少品質や店の状態が悪くても、少ないお金で買い物ができるダラー・ジェネラルで買い物をするようになります。なお、米国の貧困層は連邦貧困ガイドライン(Federal Poverty Guidelines/FPL)によって定義されています。2025年の年収基準は以下の通りです。
- 1人世帯:$15,650(約235万円)
- 2人世帯:$21,150(約317万円)
- 3人世帯:$26,650(約400万円)
家族1人追加につき、$5,500が加算されます。なお、2023年の日本の世帯年収中央値は405万円です。
最大の要因PBM償還問題
PBM償還問題は日本で生活をする人には理解が難しいでしょう。日本の医療関係者でもPBMは何かを説明できる人は少ないと思います。まず、日本の薬価は国が決定するのに対し、米国は市場原理で決まります。
次に、日本には存在しない中間業者であるPBMが、薬局への支払い(償還額)を決定する権限を持っています。最後にPBM償還問題の影響がCVSヘルスよりウォルグリーンに大きかったビジネスモデルの話です。
日米の薬局の違い

日本と米国では、薬を買うシステムがまったく違います。日本では薬の価格は国が決める「薬価」で全国一律であり、国民皆保険が前提であるために患者は通常3割を負担し、残りを保険者が支払います。薬局の利益は「調剤料」と「薬価差益」から成り立っていますが、常に薬価改定がされていて薬価差益による収益は様々なロスで相殺される水準です。
一方、米国では薬の価格は国の規制なしに自由市場で決まり、患者の負担額は加入している保険の種類によって大きく異なります。また、非常に複雑な支払いシステムが特徴です。