顧客体験をテクノロジーで拡張する~リテール業界のDXレポート~ #04

渋谷のビル街を花火が舞い、飛行機がすり抜ける。未来のXR体験創出するクリエイター育成も【大丸松坂屋 林 直孝】

 

進化するXR体験


 ここで少し、私が昨年、米ラスベガスで視察したXR施設についてご報告します。ひとつは2023年にオープンし、既に世界的な有名施設になっている球体型複合アリーナ「Sphere」です。鑑賞したのは『Postcard from Earth』というコンテンツで、Sphereでの上映を目的として撮影された映画でした。ゴーグルは付けないのですが、スクリーンが270度の視野いっぱいに広がっているので3D体験をしているような没入感があります。大きな宇宙船に乗って進んでいくような感覚で、オレンジ畑が映ると本当にオレンジが香ったり、風を感じたり現在体験可能なLBXの最高峰を見た気がしました。一方でネットで知るこちらの施設の建設費や運営費のことを考えると、私たちの企業で取り組むには現実的ではないとも感じました。

 Sphereに加えて何カ所か体験したのが対戦型VRゲーム施設です。たとえばSandbox VRの「DEAD WOOD PHOBIA」は、VRヘッドセットを装着したプレイヤーがチームになり、手に持った銃でゾンビの大群と戦うというインタラクティブなゲームでした。1回50分のゲームを毎月10万人以上がプレイしているとのことです。Sandbox VRは米国を中心に世界40拠点以上に展開しており、世界90拠点以上に展開するZero Latency VRとともにVRアトラクション2大勢力として知られています。グローバルにもマネタイズできているようで、Sphereほどの巨大な投資がかからないのに非常に盛り上がって没入感があり、私たちが目指すリアルメタバース、LBXはこちらの方向が現実的だと感じました。

 日本でもさまざまなVRアトラクション施設が登場し、最近勢いを盛り返しています。横浜のアソビルではグローバルに展開しているクフ王のピラミッドVRツアーが上陸し、TOKYO DOME CITYでも月面旅行のVRコンテンツが話題です。この潮流は「来ている」という実感があり、私たちもSCや百貨店の施設を活用してできたら楽しそうだなと考えています。

 それに加えて、そういったリアルメタバースやLBXをリアル店舗にも組み込めないかと考えています。今の売り場は、誰が見ても同じように見えるわけですが、スマートグラスやApple Vision Proのようなデバイスを付けていただくと、リアルとバーチャルが組み合わさり、お好みのコンテンツを体験しながら商業施設内を巡ってもらえるのではないか。人やモノとぶつかったりするリスクは当然クリアしなければなりませんが、Apple Vision Proは現状でも周囲の見え方を調整することができますから、将来的には安全対策は可能になるのではと思っています。たとえばスマートグラスをかけるとバーチャルな花火が一体化した商業施設内を歩き回りながら浴衣の買い物ができるなど、これまでにない空間体験を創出してみたいです。

 また、渋谷PARCOにはCYBERSPACE TOKYOという、任天堂やポケモンなど日本を代表するIPコンテンツで溢れるフロアがあります。今や海外のお客さまのほうが多いような人気スポットですが、グッズの買い物だけでなく、たとえばスマートグラスをつけてゲームやアニメ、漫画の世界を体感できれば、よりショッピングと体験が一体化した空間体験が提供できると期待されます。

 最後に、人材育成についてお話します。前編で、20xx年の商業施設では「空間体験プロデューサー」という人材が重要になるとお話しましたが、Web3.0のメタバース時代には優れたXR空間コンテンツを創造できる人材も数多く必要になります。STYLYはApple Vision Pro向けのコンテンツ開発カリキュラムを職業訓練機関の渋慶学園グループに提供しており、私も先日、学生たちの成果発表会に審査員として参加させてもらいました。

 下の写真は車販売のコンテンツで、車に「乗ろうと」している私です。Apple Vision Proをつけた私の目の前には車があり、学生にどうやって乗るのか聞きながらドアを開けようとしています。
  

 5組の学生がプレゼンし、グランプリを獲ったのは『注文の多い料理店』という作品でした。手をかずさと自分が物語の中のお客さんになって注文の多い料理店に入っていき、宮沢賢治の名作の世界を体験できるコンテンツで、素晴らしい体験設計でした。

 驚いたのが、バーチャル空間のお店の外観やさまざまなアイテムを、「自分でつくったら期限の3カ月では終わらないから」と、生成AIを使って6時間程度で50個ほどつくったというのです。若い人がAIのサポーを受けながら、こんなに凄いものを短期間でつくれてしまう。そんな現実を目の当たりにして、このペースなら次世代の空間体験が創出される世界は思ったより早く来そうだと予感しました。あとはデバイスの普及次第かもしれません。
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