リテールから考える「マーケティングの本質論」 #01
小売業のマーケターは「伝道師」になろう
小売業のマーケターは、なぜ「マーケター」と名乗らないのか
私が知っている小売業のマーケターは、自らのことを「マーケター」と名乗りたがりません。それは、自分たちのミッションは「利益を稼ぐことだ」と考えている人が多いからだと思います。また、小売業の組織は細分化されていないケースが多く、マーケティングチームが店舗集客だけでなく、現場のオペレーション、ECサイトなど、全体を統括する必要があり、経営に近い領域を担当していることも、理由として挙げられます。
私自身も業務の範囲は広く、出店候補地の選定からECサイトの運営、テレビCMやチラシなどの広告、デジタル広告の運用、PR、店舗の分析、販売促進、それらに関わるオペレーション設計など、多岐に渡ります。
そうした小売業のマーケターに、まず求められることは、顧客が「線」で動いていることを自覚することです。顧客は何かを買う際、従来からあるテレビCMや交通広告などのメディア接触だけでなく、SNSやECサイト上の商品情報や口コミを来店前にチェック、来店時には店内のPOP、VMD(visual merchandising)、スタッフとのコミュニケーションなど、さまざまな接点を持ちます。
そして接客から購入に至り、帰宅後に商品を使用。数日後に、店舗からDMやメルマガが届くこともあります。商品の認識から購入、使用、再来店までが「線」でつながり、けっして「点」ではないのです。
たとえ入店させることに成功しても、顧客を満足させられるとは限りません。特に、関与度の高い商品ほど、消費者は事前にインターネットで情報を入手してから来店します。当社でも、販売員よりも顧客が目当ての商品について詳しいこともあり、商材によっては店舗購入者の約6割の顧客が事前にECサイトでチェックしてから来店していることがわかりました。さすがに、この結果には驚きました。
さらに商品情報だけではなく、その店舗についても調べてから来店します。いくらカッコイイWebサイトをつくっていても、店舗での接客が雑であれば、もう二度と来店してくれません。
スマートフォンの登場で、顧客はリアルとデジタルを行ったり来たりします。マーケティングは2Dではなく3Dになり、カスタマージャーニーも複雑化しました。
現代は、「目の前の顧客だけを接客」「仕入担当者は売れそうな商品の目利きだけ」すれば良いという時代ではないのです。小売業のマーケターは、その変化に自らをフィットさせる必要があり、そして購買担当や店頭の販売スタッフなど社員全員も「線」で考える必要が生まれています。
なぜなら、もう「独自」の価値を持った商品は、ほとんど存在しないからです。マーケティングの話になると、すぐにAppleを例に出す人がいますが、それは稀有なケースです。
全ての企業がAppleになれるわけではありません。むしろ小売業では、どこでも買える商品を取り扱うことの方が一般的です。そうなると「当店で買うと、良いですよ」という体験をしてもらえないと、見向きもされないでしょう。