関西発・地方創生とマーケティング #06
「中川政七商店には、何も無いんですよ」中川政七商店13代目がそう語る理由と、奈良の地方創生【能川 一太】
2018/11/02
地方創生と奈良について
「仕事があることは大切だけど、それで移住を促すのは違うと思います」私から「地方創生、すなわち地方が元気になるためには、そこに人が住まないといけない、そのためには仕事が必要、そうすれば人は住むし、人が来る。そこでマーケティングが必要だと思うのですが」と尋ねると、このような明快な答えが返ってきました。
「定住人口を増やそうとしても、これからは人口が減っていくので意味がない、どこかが増えれば、その分どこかが減ることになるので、誰も勝たない。それは、政治として間違いだと思う。しかし、インバウンドも含めて外から人に来てもらうという考えはある」とのことです。
そのために必要なのが、一社一社のブランディング。会社が良くなるというのはすなわち、ブランド価値を高めるということ。前回もお話を伺いましたが、一つひとつのコンテンツがどれだけ魅力的になれるか、どうやって磨いていくかという、地道な作業が大切だ、と。
次に、奈良をテーマに話を伺いました。これについては、よく聞かれるそうです。
「奈良は若者目線では面白くない街で、一切興味がなかった。ただ、最近になって良い場所だと思うようになった」、と。
2年前の十三代襲名時にも述べられたそうで、10年で奈良というエリアを元気にしたいと思っていらっしゃいます。だから、奈良の企業のブランドを磨くお手伝いをして、一社一社が輝くことが必要だと考えている、と。
そして、それを拡大させていくためには、行政との連携が必要だけれど、奈良県との協同の取り組みにはいたっていないようです。なぜ、なのでしょうか。
「恵まれているから。観光客も、特に最近はインバウンドも多いし、依然として大仏商法が続いているのだろう」と言います。
「奈良にあるのは社寺仏閣、歴史、鹿。これ以外に勝てるものはない。だけど、これらはかなり強いコンテンツで、今ある力は最大限生かすべき。新たにコンテンツをつくらなくても、既に歴史遺産があるので、しばらくは続くだろう」、と。
とは言え、将来的には、絶対に「一企業が頑張るべきだ」と言います。
「奈良で、若い観光客がわざわざ行きたい店となると、人気カフェ『くるみの木』と『中川政七商店』(奈良県内では『遊 中川 本店』『日本市 奈良三条店』として直営店を展開)くらい。一方、京都にはそういうコンテンツがいくつもある」
その背景には、明治維新後の都市ブランディングや、新幹線の駅の有無など行政の戦略の差も関係していて、「商売になるから京都には外資(京都以外の資本)が入ってくる」と指摘していました。
奈良にも、そういうお店や企業を増やすためには、やる気のある人に経営の知恵を授けないといけない。
そこで中川さん自らが、講演や書籍執筆だけではなく、他の中小企業に教育をする経営塾を始めているそうです。参加者は県内の経営者が多く、他にはクリエイティブの方も参加されていて、今後そういう方同士が手を組んで、新たなビジネスにつながるかもしれない、と。
この効果については、私自身も実感しています。最近、企業のマーケティング担当者が一堂に会するカンファレンスが、日本中で開催されています。そして企業同士のコラボレーションが増えています。さらに、私はマーケティング関係者同士だけではなく、違う職種同士で交流することが必要だと感じています。