リテール・EC
生活者目線を軸に、安心安全なリテールメディアの発展を願い、ガイドライン作成【リテールメディアコンソーシアム座談会】
2025/10/28
常に生活者目線に立ち返って考えることが大事
ーー今は自分のデータがどう使われているのか分からなくて怖いと感じている生活者も多いと思うのですが、今後、生活者に向けてリテールメディアがWin-Winのものであるという理解を広げていくために考えている取り組みはありますか。
朱 大事な観点ですよね。企業には、プライバシーポリシーの提示義務や同意の取得など、さまざまなところで生活者への情報伝達が義務付けられていますが、では生活者はその大量の文章をすべて読めているかというと、実はそうではないですよね。だから、形式だけの同意になってしまっています。それでも民法上の契約行為は成立するので、生活者にそういったリスクのあることをやらせているんだということは、企業も自覚する必要があります。
もちろん、生活者にそうした文章を読んでもらえるような工夫はすべきなのですが、同時に生活者が根拠のない不信感に陥らないようにするのも大事な観点です。社会学には「信頼とは、社会の複雑性を縮減することである」というテーゼがあります。つまり我々は全部疑ってかかっていては生活ができないわけです。大事なのは、生活者の目線を代弁できるようなメディアや業界団体、学術有識者などが「あれは信頼に値するものだ」と言ってくれること。そうしたことを通して、リテールメディアは個人情報を預けてもいいテクノロジーなんだと信頼してもらうことが、実はコストも一番かからない方法です。それに向けてどのような努力が必要かを論じていくべきなのかもしれません。

株式会社 電通
第6マーケティング局 CXコンサルティング1部
チーフ・リサーチ・ディレクター
Ph.D.
朱 喜哲氏
大阪大学社会技術共創研究センター招へい准教授。電通チーフ・リサーチ・ディレクター。大阪大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(文学)。専門はプラグマティズム言語哲学とその思想史。また研究活動と並行して、企業においてさまざまな行動データを活用したビジネス開発に従事し、ビジネスと哲学・倫理学・社会科学分野の架橋や共同研究の推進にも携わっている。著書に『〈公正フェアネス〉を乗りこなす』(太郎次郎社エディタス)、『バザールとクラブ』『人類の会話のための哲学』(よはく舎)、『NHK100分de名著 ローティ「偶然性・アイロニー・連帯」』(NHK出版)など。
第6マーケティング局 CXコンサルティング1部
チーフ・リサーチ・ディレクター
Ph.D.
朱 喜哲氏
大阪大学社会技術共創研究センター招へい准教授。電通チーフ・リサーチ・ディレクター。大阪大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(文学)。専門はプラグマティズム言語哲学とその思想史。また研究活動と並行して、企業においてさまざまな行動データを活用したビジネス開発に従事し、ビジネスと哲学・倫理学・社会科学分野の架橋や共同研究の推進にも携わっている。著書に『〈公正フェアネス〉を乗りこなす』(太郎次郎社エディタス)、『バザールとクラブ』『人類の会話のための哲学』(よはく舎)、『NHK100分de名著 ローティ「偶然性・アイロニー・連帯」』(NHK出版)など。
寺門 実は数年前から、大きな企業は「プライバシーガバナンス」の取り組みを進めており、ホームページなどにプライバシーポリシーとは別に顧客データをどのように使っているかをグラフィックとともに分かりやすく説明するページを設けるケースが増えています。リテールメディアについても消費者向けのアピールとして、リテールメディアがどのように便利なものなのか、リテールメディアを扱う上でどのようなことに配慮しているかといったメッセージを出していくというのは、一つあり得ることではないかと思います。
朱 確かに、それは次のステップの一つかもしれません。
福田 実務側のアクションも必要かもしれません。当社もしっかり法律やプライバシーを守ってやっている自負はありますが、新しい取り組みを始めたり、データの状況が変わったりすれば、その時々で正しい理解や確認をする必要があります。常に生活者の視点に立ち返りながら扱っていけるといいと思います。
ーー最後に、読者に一言ずつメッセージをお願いします。
福田 私は、リテールメディアを、みんなで目線をそろえて盛り上げられるようになるといいなと思っています。広く見たときにはまだまだ目線がそろっていないところもあります。リテールメディアを手がける一員であると思っていない人たちもいるかなと思っているので、そういった人たちに働きかけていきたいと思っています。業界の先駆者として消費者の購買のデータを扱わせてもらっているという自負はあるので、そういう働きかけは私の立場からもしていきたいと思っています。
朱 業界に向けて真剣な話をすると、購買データはすごく可能性を秘めたものであると同時に、やはり思わぬところで消費者を攻撃にさらしてしまう可能性があるわけです。たとえば、家族が気づくよりも先に購買傾向から妊娠兆候が推定できてしまうなど機微な健康状態や知られたくないプライベートな趣味に関わることが分ってしまうといったことが考えられます。お買い物は私たちの生活のほとんど全てなので、その中には当然知られたくないものや、勝手に類推されたくないものがたくさんあります。
そのように、お買い物にはいろいろな怖さがあるということを事業者は実感しながら、ヒヤリハットの感度を磨くことが大事だと思いますし、ヒヤリハットを感じたときにこのガイドラインを手掛かりとして、専門家に相談してもらえればと思います。
寺門 リテールメディアは、消費者接点を大量に持っている小売、その顧客データを使ってより良い商品を開発できるメーカー、そして消費者、みんながWin-Winになれる取り組みだと思います。ですから、リテールメディアを活用して、消費者にとってメリットのある施策をどんどんやっていくべきだと考えています。それを促進していくためには、安全なモデルをつくっておく必要があるわけです。
そのためにこのガイドラインを活用してもらいたいと思いますし、法務側はデータ活用の技術にもっと詳しくなる、事業部側はもっと法律に詳しくなるというように、お互いが歩み寄って一緒に検討できる状態を目指していきたいと思っています。そうすれば、「規制だ、規制だ」と言われなくても、当然のように安心・安全で便利なものができ、誰にも不利益のない世界ができるのではないかと思います。
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