リテールから考える「マーケティングの本質論」 #06
「可処分時間」の奪い合いが、小売業でも起きている【コメ兵 藤原義昭】
来店中の時間短縮による購買体験を考える
では、行くのをやめるお店にならないために、できることは何でしょうか。最近では、店頭決済にもキャッシュレス化の波が少しずつ押し寄せてきています。これもひとつの時間短縮の方法だと言えます。
また、店舗内の検索性も改善できそうです。ひと昔前は百貨店に行くことがレジャーでした。そこに行けば、何かワクワクするものがあるかもしれないという偶然の出会いへの期待があったのです。その提供は今でも重要ですが、これほど情報取得が容易になった現代では、事前に情報を得てからの来店も少なくありません。全ての店舗でワクワク感を実現することは、残念ながら難しくなっています。
消費者は、オムニチャネル時代で、デジタルとリアルを行ったり来たりするようになりました。オムニチャネルは購買チャネルの統合を主に考えますが、企業が提供できる情報もオムニチャネル化することで、今まで店舗でしか提供できなかったことがデジタルでも提供できるようになっています。
来店前にデジタルコンテンツを使って時短価値提供
小売業でも、最近ではECだけではなく、ブログやSNSなど自社のデジタルコンテンツを複数保有するようになりました。消費者も来店前にECサイトで商品をチェックしたり、ブログやinstagramのスタッフによるコーディネートを見たりしてから来店し、実際の商品を手にとってから購入するという行動をとっています。
これは小売業にとっては、それまで店頭で行ってきた接客がデジタルの世界でも行うようになり「接客の概念」が広がったことを意味しています。
そしてデジタルコンテンツが出てきたことで、リアル店舗で接客を行う必要がないケースも起きています。例えば、商品は来店しないとわからなかったものから、事前にECサイトで知ることができます。
アパレルであれば、行きつけの店舗の在庫の有無からサイズまでわかります。また、コーディネートのコンテンツを見ることで、自分の手持ちの洋服と合うかまで知ることができます。このように来店前に、それまで店頭でしか知り得なかった情報を入手でき、店舗では手触り感や最後の試着など、物理的にデジタルでできないことを利用すれば良くなっています。時間を短縮しながら、目的の達成が叶うわけです。
では、このような施策を我々、小売業は、どのように実現できるのでしょうか。すでに消費者はデジタルやリアルを切り分けずに行動しているため、事業者も同じようにデジタルとリアルを意識せずに考えることが必要です。そして店舗では消費者にとって無駄な時間を極力削ぎ落とし、デジタルでは成し得ない物理的なサービスを提供してはどうでしょうか。
最後に、もう一つ忘れてはいけないことは、店舗で提供する価値は物理面だけではなく、感情面にも配慮するということです。消費者の時間は、限られています。その時間内でより良い体験が実現できれば、顧客にとっても企業にとっても良い結果が待っているのではないでしょうか。
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