次のECの鍵は「Cross Dimension」にある #04

デジタルマーケターの競争戦略。ECビジネスからマーケティングの普遍性は導きだせるのか【ディノス・セシール 石川森生】

3つの要素にEC運営上の解説をする

 前提として、どんな商品・サービスも(よほど不幸な事情がある場合を除き)顧客は対価を支払う意味を理解している(1)。また、顧客はリピート客(2)と初めてその商品・サービスに対価を支払う新規顧客(3)に大別される。

 なお、日々のマーケティング活動の全てが、この3つに個別に紐づくわけではなく、むしろそのほとんどが重複してこれらの要素に効力をもたらす。

 特に、リアルビジネスと比較して、Webビジネスが優位性を発揮しやすい分析、クリエイティブやUIの改善サイクルといったことを考えれば明らかであろう。

 魅力のある商品紹介は、誰にだって購入の後押しをするものであるし、普遍的に使いやすいデザインや機能も存在する。ただし、本稿はECにおける個別の活動について掘り下げることはしない。



 「明日からECショップの売上を上げる10のこと」といったTIPSの紹介を目的から放棄する前提で、上述の3つの要素にEC運営上の解説を少し加える。
 

まず、商品・サービスについて。


 マーケティングというものに関わったことがある方なら言わずもがなであるが、ビジネスの中心は商品やサービスそのものが持つ本質的な価値にある。

 商品・サービスが売れる仕組みをつくることがマーケティングであると定義することもできるが、そもそも商品・サービスに価値をどう付加するかという時点からマーケティングは始まっており、むしろほとんどの勝負はこの時点でついていると言っても過言ではない。

 リテール業であればMD、つまりは商品選定および周辺サービス設計が実は最も重要なマーケティング活動を担っている。だから、ここに関わることが許されていないマーケターは、顧客価値全体のそもそも“ごく一部”しかコントロールできようがないという事実を肝に銘じるべきである。

 世界的なトップマーケターたちが、そもそもマーケティングというセクションが社内の組織として独立して存在していることに異を唱え始めているのも、こうした理由によるものであろう。況んやデジタルマーケティングをや。


 次にリテンションについて。


 多くのビジネスにおいて、リテンションの成否がビジネス自体の成否を分ける。なぜなら、新規獲得コストよりもリテンションコストの方が基本的には安く済むからだ。

 よく誤解されることのひとつに、ECは店舗などのリアルビジネスと比較してコストが掛からないというものがある。それはあくまでリテンションのための活動においてだけであり、新規獲得のコストはWebであろうとそこまでコスト効率は上がらない。

 翻せば、ECの強みは比較的コストが掛からないリテンション手法を多く有している点にある。よって、新規売上比率が高止まりしている状態のビジネスはリテンション活動のどこかに欠陥があるか、新規比率が高くても成立するP/L構造になっているかのいずれかである。

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