次のECの鍵は「Cross Dimension」にある #05

隣駅の歯医者に我が子を連れていく理由を分析したら、デジタルマーケティングに必要なことが見えてきた【ディノス・セシール 石川森生】

差別化のポイントは「虫歯を治す」ことではない

最後に、新規顧客獲得はどうか。
 
  1. HPが独立したドメインでしっかりしている
  2. 地域掛け合わせのリスティング広告などには出稿している

 といった具合だ。ちなみに、この歯医者は立地が良いとは言い難い。駅からは徒歩5分ほどあるし、1階に飲食店が入るビルの2階にあるため、偶然目に付く確率はかなり低いと思われる。ECで言うところのオーガニック流入はほとんど期待できない。

 にもかかわらず、商圏での電柱広告や最寄り駅でのOOHすら見かけたことがない。つまり、歯科としてのサービス設計やリテンションにおけるマーケティング力からすると、新規獲得に対する施策は明らかにパワーダウンしている。

 これは意図してやっていることなのか。この記事を書くために、子どもの治療をしてくれている最中の院長に聞いてみた。

 「新規の患者さんて、何を見て来ているんですかね?」

 「ほとんどクチコミです。」

 マスクの下で確実にほくそ笑んでいた。

 お分りいただけるであろうか。歯を治療するという、効果だけ見れば差別化が困難な「商材」において、サービス設計によって別の機能を付与し、突破口を開いている。この時点で、差別化のポイントは「虫歯を治す」ことではなくなっているわけだ。

 これは何も特殊な事例を取り上げたわけではない。レッドオーシャン・マーケットで競争に勝っている企業では、同様の戦術が勝ちパターンとしてフォーマット化されているところもある。洗濯洗剤で選ばれるためには「汚れを落とす」といった結果だけにフォーカスを当てない、といった話と本質は同じだ。
 

まず勝つために必要なサービス設計をしよう

 今回は一つ、普段語られることがあまりないであろう、歯医者のマーケティング戦略を例に考えてみた。結果、競争優位を築いている要素を分解すると、ECと同じ思考プロセスで十分に勝ちパターンを理解することができるということが分かった。



 いや、もしかしたら逆に、ECで勝つためにはより普遍的なマーケティング戦略をまず最初に抑える必要がある、ということなのかもしれない。少なくとも私の周りで活躍しているECマーケターはECの枠に収まっていない人物ばかりだ。

 「デジタル施策に活用するためのデータ環境が脆弱で手が打てない!」と嘆く前に、勝つために必要なサービス設計の話をしよう。そのサービスは誰に向けたもので、なぜ顧客はそれに対価を支払い、リピートするのか。

 それを紐解いた上で、我々が得意なデジタルを活用した自動化・最適化を進める準備をしよう。そのフェーズまで行けば、ついに我々にアドバンテージがやってくる。
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