顧客体験をテクノロジーで拡張する~リテール業界のDXレポート~ #05
「大量生産・大量廃棄」時代を超えて百貨店が挑む、サステナブルなファッションの事業可能性【大丸松坂屋 林 直孝】
私は現在、ショッピングセンター(SC)のPARCO(パルコ)や百貨店の大丸、松坂屋などを展開するJ.フロント リテイリング(JFR)を経て、この春より大丸松坂屋百貨店でデジタル戦略推進を統括しています。この連載では、新卒で入社したパルコでの経験を中心に、SCや百貨店においてテクノロジーがどのような思想や方法論のもとに顧客体験を「拡張」し、新しい価値提供につなげているかをご紹介・考察します。
前回は、ARやVR、メタバースといった先端技術を活用して、物理的な空間そのものをつくり変えることなく、仮想的に価値を拡張する取り組みをご紹介しました。今回は視点を「ファッション」に移し、「つくる→着る→捨てる」という一方通行から「循環」へと発想を転換する動きに焦点を当て、百貨店がどのようにその変化と向き合っているかをお届けします。
「サステナビリティ」が不可避のテーマとなった今、百貨店に蓄積された信頼・目利きと新たなテクノロジーの融合が、ファッションのビジネスモデルをどう変えていくのか。その現在地をお伝えします。
★記事の最後に、アジェンダノート読者向けの特別企画のご案内があります。ぜひご覧ください。
前回は、ARやVR、メタバースといった先端技術を活用して、物理的な空間そのものをつくり変えることなく、仮想的に価値を拡張する取り組みをご紹介しました。今回は視点を「ファッション」に移し、「つくる→着る→捨てる」という一方通行から「循環」へと発想を転換する動きに焦点を当て、百貨店がどのようにその変化と向き合っているかをお届けします。
「サステナビリティ」が不可避のテーマとなった今、百貨店に蓄積された信頼・目利きと新たなテクノロジーの融合が、ファッションのビジネスモデルをどう変えていくのか。その現在地をお伝えします。
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百貨店に求められる、サステナブルなファッション体験
「サステナビリティ」が、ファッション業界における重要なキーワードとなってから久しくなりました。とはいえ、それをどう事業に落とし込むのかは、まだまだ模索が続いているのが実情ではないでしょうか。私たち大丸松坂屋百貨店も、アパレルを扱う企業として、長らくこの問いと向き合ってきました。
私たちの原点は、1611年に名古屋で創業した、いとう呉服店(のちの松坂屋)、そして1717年に京都で誕生した「大文字屋」(のちの大丸)にあります。いずれも「衣」を出発点とし、人々の暮らしに寄り添いながら時代とともに歩んできた企業です。
明治・大正・昭和と時代が進むなかで、戦前・戦中の「モノが不足する時代」を経て、高度経済成長期には「モノを揃え、満たしていく場所」としての役割を担ってきました。しかし今は、欲しいものは何でも手に入る「飽和の時代」。私たちは今、次なる価値のあり方を模索する段階に入っています。

ファッションの構造的な課題は、やはり「大量生産・大量廃棄」です。日本国内での衣料品の供給量は、1990年に約20億点だったのが、2019年には約40億点へと倍増。一方で売れ残りや廃棄も増え続け、毎年51万2000トンもの衣料が廃棄されているとも言われています。
1人あたりの年間平均購入数は18枚。そのうち手放す服は15枚にとどまり、着用されないままクローゼットに眠る服は、平均で35枚あるというデータもあります。必要以上に服が増え、使いきれずに溜まっていく──これが、いまのファッションの現実です。
こうした背景のもと、私たち百貨店にも、単に「モノを売る」だけでなく、その先の価値や循環を見据えた役割が求められるようになってきました。そうして始まったのが、「REDUCE(リデュース:削減・抑制)」「REUSE(リユース:再利用)」「RECYCLE(リサイクル:再資源化)」の3Rを軸にした取り組みです。
ファッションを取り扱う企業として、リユースを本格的に事業化
なかでもリユースは、グループとして初めて本格的に事業化に踏み切りました。リユース業界大手のコメ兵と合弁会社を立ち上げ、中古品の買取・販売事業「MEGRÜS(めぐらす)」を、2025年8月から松坂屋・大丸・パルコ各店で展開しています。

第1号店は2025年8月5日に松坂屋名古屋店に、続く第2号店は同年8月8日に大丸東京店にオープン。以降も、松坂屋・大丸・パルコの各店舗へと順次展開を広げ、2025年度内に8店舗、4年で23店舗の出店を計画しています。
「MEGRÜS」は、ブランドアパレルを中心としたセカンドハンド商品を、次の使い手につなぐための買取専門店です。買ったけれど使わなかった服、まだ着られるのに手放された服やジュエリー、時計、バッグなどを回収し、価値ある商品として再び市場に送り出す。そんな二次流通の仕組みを通じて、「捨てる」から「回す」への意識の転換を促していきます。
リユースは今、さまざまな企業が注目する領域です。私たちとしても、この流れを見過ごすのではなく、自ら事業として取り組むことにこそ意味があると考えました。モノが過剰につくられ、使われないまま廃棄されていく現状や、販売が伸び悩むという課題に向き合う中で、リユースは私たちにとって新たなビジネスの芽となる可能性があると捉えています。
単なる「お得なレンタル」ではない、百貨店業界初のサブスク型のシェアリングサービス
もうひとつ、すでに2021年から取り組んでいるのが、ファッションのサブスクリプション型のシェアリングサービス「AnotherADdress(アナザーアドレス)」です。これは百貨店業界初の試みで、420を超える国内外のデザイナーブランドから、お客さまが好きなタイミングで好きな服を選んで借りることができます。


このサービスで目指しているのは、単なる「お得なレンタル」ではありません。バブル崩壊以降、デザイナーファッションを身に纏って楽しむ現代に、ファッションが持つ楽しさや力、つまり「ファッション・エンパワーメント」を、より多くの人に届けること。そうした思いからスタートしました。
マーケティングの視点でも、ファッションにおける新しい消費スタイルとしての「借りる文化」は着実に広がりを見せています。社会全体でモノが飽和し、自宅のクローゼットにも余白がなくなりつつある今、「必要なときに、必要なものだけを借りる」というスタイルは、空間的にも時間的にもスマートな選択肢です。さらに、「試してみたけれど似合わなかった」「思っていたのと違った」といった“買い物の失敗”からも解放され、無駄な消費を減らすという点で、エコフレンドリーなライフスタイルにもつながっていきます。
実際に、AnotherADdressでは10万点を超えるアイテムを揃えており、朝に選んだ服が翌日には届くというスピード感も特長のひとつ。まるで自分のクローゼットのように、気軽に、自由に使っていただけるサービスを目指しています。
百貨店のファッション売上は、1990年代にピークを迎えて以降、減少傾向が続いてきました。一方、2000年代以降はEC市場が急成長し、さらに2020年代に入ってからは、サブスクリプション型のファッションサービスも数多く登場するなど、消費スタイルは大きく変わりつつあります。そうした変化を前向きに捉え、私たちも自ら機会をつくり、新しい市場を育てていきたいと考えています。
現時点では、国内アパレル市場全体は約8兆円規模と言われていますが、サブスクリプション型サービスの市場シェアはまだ1%未満にとどまっています。ただ、ウィメンズ領域を中心に潜在的なニーズは確かに存在しており、今後の成長に大きな可能性を感じています。




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