顧客体験をテクノロジーで拡張する~リテール業界のDXレポート~ #05
「大量生産・大量廃棄」時代を超えて百貨店が挑む、サステナブルなファッションの事業可能性【大丸松坂屋 林 直孝】
「reADdress」と「roop」で実現する、循環するファッション
レンタルを通じてファッションの循環を提案する「AnotherADdress」ですが、運営を続ける中で新たな課題にも向き合うようになりました。それは、レンタルとして提供できなくなった衣類の行き先です。
どれだけ丁寧にメンテナンスしても、服は少しずつ劣化していきます。シミや傷みが増えれば、やがてレンタルには適さなくなる。これまではその時点で廃棄するしかありませんでしたが、大切に着られてきた服をそのまま終わらせてしまうのは、あまりにも惜しい。そんな思いから生まれたのが、アップサイクルブランド「reADdress(リアドレス)」です。

reADdressでは、レンタルを終えた服にもう一度命を吹き込み、新しいアイテムとして生まれ変わらせています。単なる補修ではなく、創造的につくり変えることで、服に新たな魅力を与えています。
さらに、私たちはアップサイクルの循環をより広げていくための挑戦にも取り組んでいます。それが、衣類循環プロジェクト「roop(ループ)」です。

reADdressでは、私たちが仕入れてレンタルとして提供していた衣類を対象にアップサイクルを行ってきました。一方のroopでは、アナザーアドレスで借りた服に加え、お客様自身が過去に購入された服も回収の対象としています。つまり、私たちが直接扱っていなかった衣類、個人が所有してきた“思い出の服”にもアップサイクルの循環を広げているのです。
これにより、これまで別々に存在していた2つの衣類の流れ、すなわち「サービス提供側が管理する衣類」と「消費者が所有していた衣類」の両方が、ひとつの循環の中でつながるようになりました。「reADdress」と「roop」は、レンタルからアップサイクルへ、そしてまたレンタルへと戻すファッションの循環を生み出す、2つの車輪のような存在です。
この流れをさらに推進する取り組みとして、「roop Award」も実施しています。服飾学生や若手クリエイターを対象に、回収した衣類を素材にしたアップサイクル作品のコンテストを開催しています。優れた作品は実際にレンタル商品として展開される予定で、賞金やアワードを通じて次世代の才能を応援する場にもなっています。
百貨店ならではの接客と仕組みで、ファッションの価値はもっと広げられる
ファッションレンタルというと、どうしても個人向けのサービスというイメージが強いかもしれません。でも私たちは、AnotherADdressの価値をもっと幅広く社会に届けていきたいと考えています。
そのひとつが、BtoBでの展開です。6月から「AnotherADdress.biz」として本格始動しました。たとえばテレビ局のアナウンサーの衣装としてご利用いただく取り組みが始まっています。毎日違う服を着る必要があり、かつきちんとした印象が求められる。そんな現場では、ファッションレンタルの柔軟さや、豊富なブランドラインナップが高く評価されています。
また、最近ではタワーマンションにお住まいの方々を対象に、マンション全体でファッションレンタルを導入いただくような試みも具体化に向けて実証実験を進めています。現時点でも、共働き世帯で、なかなか買い物に行く時間がない。クリーニングの手間も省きたい。そうしたニーズに対し、物件の付加価値としてサービスをご活用いただいています。

また、東急不動産さんとの協働で、ゴルフ場との連携もこの秋からスタートしています。特に若い女性のゴルフプレイヤーが増えてきているなか、ゴルフウェアを一式揃えるのではなく、「行き先に届けておいて、終わったら置いて帰る」という使い方ができれば、ぐっと気軽になりますよね。「おしゃれに楽しみたいけれど、大きな初期投資は避けたい」。そんな声にも応えていきたいと思っています。
こうした展開を支えているのが、「百貨店の強み」です。私たちは長年、店頭でお客様に寄り添いながら商品を提案してきました。ブランドの魅力をどう伝えるか、似合う服をどう見つけるか。そうした“人の知見”を、オンライン上の接客にも生かしたいと考えています。
たとえば、アナザーアドレスでは「ファッションタイプ診断」機能を提供しています。いくつかの質問に答えることで、ユーザーの骨格・パーソナルカラー・顔タイプ・好みの4つを診断し、そのタイプに合ったおすすめスタイルを提案する仕組みです。さらに今後は、生成AIを活用して、テキストでの相談に応じて具体的なコーディネートを画像付きでレコメンドする機能も実装予定です。
「来週ちょっと大事な食事会があって…」「オフィスカジュアルで悩んでいて…」といったリアルな声に寄り添い、百貨店の強みをテクノロジーと組み合わせながら、より多くの方に、百貨店ならではの体験価値をオンラインでも届けていきたいと思っています。
サステナビリティを、自然な選択肢、可能性のある事業に
アナザーアドレスの事業を立ち上げて4年。振り返ってみると、「サステナブルって本当にビジネスになるの?」という声があったのも事実です。でも実際には、事業開始以降、9半期連続で二桁を超える成長が続いており、今や個人向けだけでなく、法人向けの導入相談も増えています。
何より感じるのは、「こういう形でならファッションをもっと楽しめる」と感じてくださる方が確実に増えているということです。たとえば私自身も、普段ジャケットにTシャツというスタイルなのですが、いまはもう、ジャケットを買わなくなりました。アナザーアドレスで毎月3着借りて着回す生活を続けていると、「買って後悔する」ストレスからも解放されますし、クローゼットもすっきりする。そして時には、普段は選ばないような服に“冒険”することもできる。借りるからこそ広がるファッションの可能性を実感しているんです。
面白いのは、こうした使い方をすると、必ずしもファッションへの支出が減るわけではないということ。むしろ「自分のスタイル」が見えてきて、必要なアイテムには納得してお金をかけられるようになる。そんな「消費の質」の変化が起きる実感があります。
そんな体験を百貨店の社員の皆さんにも実感してもらいたくて、今年の秋から弊社らしい福利厚生メニュー「おしゃれ手当」を始めました。会社が一部の費用を負担し、アナザーアドレスを日々の生活に取り入れてもらうという取り組みで、とても好評です。
サステナビリティは、我慢や制限ではなく、日々の暮らしに寄り添う自然な選択肢であるべきです。そうした選択肢を提供することに、事業としての可能性がある。これは私たち自身が、実際の運営を通じて得た実感でもあります。
アパレル業界に限らず、多くの業界が「どうやってサステナビリティをビジネスにするか」に悩んでいると思います。私たちの取り組みが、そのヒントのひとつになればうれしいですし、今後も「循環」をテーマに、さまざまなパートナーとともに新たな挑戦を続けていきたいと考えています。
機会があれば、ぜひ一度「現場」にも足を運んでみていただきたいです。クリーニングやリペアの工程は、想像以上に丁寧で、プロフェッショナルの技術が詰まっています。記事で伝えきれない価値を、肌で感じていただけると嬉しく思います。
-
アジェンダノート特別企画【参加者募集中・2/3申込締切】
サステナブルなファッションサービス「アナザーアドレス」の現場視察ツアー - 今回の記事でもご紹介した、2021年にスタートした百貨店業界初のファッションのサブスクリプション型シェアリングサービス「AnotherADdress(アナザーアドレス)」。この事業を支える、クリーニングやリペアといった現場(アナザーアドレスクリエイティブセンター)の視察ツアーを、アジェンダノート読者向けに特別に企画しました。開催日時は、2026年2月20日(金)15:00-18:00です。
お客さまにサービスを提供するフロントエンドの体験と、こうしたバックエンドの仕組みがどのように連動しているのか。事業立ち上げに至った経緯と、9半期連続成長を実現するための勘所とは。サービス責任者による解説つきで学ぶことができます。
- 日時
- 2026年2月20日(金)15:00-18:00
- 場所
- 最寄駅 東急田園都市線「南町田グランベリーパーク」駅
- 募集人数
- 20人(最少催行人数:5人)
- 参加費
- 無料
- 行程
- 15:00 東急田園都市線「南町田グランベリーパーク」駅 北口集合
15:30 視察先到着(駅発の公共バスにて、案内のもと移動)
16:00-17:00 事前レクチャー(登壇者:大丸松坂屋百貨店 デジタル戦略推進室DX推進部部長 アナザーアドレス事業責任者 田端竜也氏)
17:00-17:15 質疑応答
17:15-17:45 工場見学(リペアの現場「クリエイティブセンター」)
18:00 解散

- 1
- 2




メルマガ登録














