リテール・EC

NRF2026レポート:先駆的DTCブランドに学ぶ、AI時代のパラダイムシフト  「分散する買い場」と変わらない「北極星」【BICP 菅 恭一氏】

 

Googleが発表した、コマースの地殻変動


執筆者:
 
菅 恭一 氏
ベストインクラスプロデューサーズ 
代表取締役社長

1998年、青山学院大学経済学部卒業、朝日広告社に入社。2004年、デジタルマーケティング組織を起案し、最年少部長に就任。 2015年4月、独立。株式会社ベストインクラスプロデューサーズの創業に参画、代表取締役社長に就任。「マーケティングの力で、人生を楽しめる人を増やす」というビジョン を掲げ、ブランドと顧客が直接繋がる時代のマーケティング活動を支援 。VMV 策定、人間理解、価値設計、市場定義、4P 方針、顧客体験設計 、RFP 、チームビルディングなど、それぞれのプロセスで方法論を思考しながら、一貫してクライアントサイドに立った伴走型支援をおこなっている。マーケティング分野のカンファレンスにも多数登壇。ad:techTokyo 1st place moderator、マーケティングアジェンダ沖縄プレゼンテーションアワード3年連続優勝、宣伝会議教育講座講師など。著書『マーケティングフレームワークの功罪』(日経BP)。

 2026年1月、ニューヨークで開催された世界最大の小売カンファレンス「NRF 2026」。今年の話題を独占したのはGoogleのCEOサンダー・ピチャイ氏によるキーノートで発表された「ユニバーサル・コマース・プロトコル(UCP)」という、これまでのコマースの概念を大きく覆す新たな規格の発表でした。例年、WalmartやTargetなど北米を代表する小売業が務めるオープニング枠にピチャイ氏が登壇し、この新規格を発表したことには、業界への強力なメッセージが込められています。

 ShopifyやWalmartをはじめ、20社以上の主要な企業が支持を表明するUCPは、Amazonに代表される「囲い込み型プラットフォーム」への依存からブランドを解放し、自社のシステムに縛られずに参画する企業のアセットを使いながらどこにでもコマースの機会を生み出すことができるようになります。Geminiはもちろん、いずれは音声デバイスやスマートアイウェアといったあらゆる顧客接点に、ブランドを主体としたコマース体験を直接届けることを可能にします 。
 
UCPは、Shopify、Etsy、Wayfair、Target、Walmartなどの業界リーダーと共同開発され、20社以上の企業から支持されている ※画像はGoogle Ads & Commerce Blogより

 この「エージェンティック・コマース時代」の幕開けともいえる地殻変動の中で、ブランドはどのように進化するのか。そのヒントが、DTC(Direct to Consumer)ブランドの先駆者たちによるセッション、「Lessons from DTC trailblazers: Surviving and thriving」に凝縮されていました。

 セッションの進行を務めたのは、CasperやAllbirdsなどの象徴的ブランドを立ち上げた投資育成型ブランドエージェンシー Red Antler の共同創業者、エミリー・ヘイワード氏。彼女が問いかけたのは、激動の10年を生き抜き、単なるDTCブランドから世代を超えたカテゴリーリーダーへと成長した3社の経営者たちです。
 
  • Away(アウェイ): スーツケースを「旅のインフラ」へと進化させたトラベルブランド。
  • Vuori(ヴオリ): 西海岸のライフスタイルを体現し、圧倒的な品質規律を持つプレミアムアクティブウェアブランド。
  • Rothy’s(ロシーズ): 回収ペットボトルから魔法のような靴を作り、サステナビリティを民主化したシューズブランド。
 
左から、Red Antlerの共同創業者 エミリー・ヘイワード氏、Vuoriのグローバルプレジデント アシュリー・ケヒター氏 、AwayのCEO ジェシカ・シニジ氏、Rothy’sのプレジデント デイナ・クアンベック氏。 ※BICP 菅撮影
 

DTC 1.0の終焉:「垂直モデル」から「戦略的水平展開へ」


 10年前、米国の小売の世界を席巻したのは「DNVB(Digitally Native Vertical Brand)」という新しい概念でした。それはDTCという言葉で表されている、単なる製造直販モデルではありません。Glossier、Allbirds、Warby Parkerなどのブランドに代表されるように、強烈な理念を掲げ、顧客との間にファネル型ではなく「垂直なつながり」を築くブランドのあり方でした。デジタルで熱狂的なコミュニティを育て、顧客と直接つながるこの垂直モデルは、2010年代のブランド構築における新しい方法として注目されてきました。

 しかし、この垂直性への執着が後に発生したコロナウイルスによるパンデミックの影響も受け、新たな課題を生みました。似たようなブランドの乱立やデジタル広告費(CAC)の高騰、そして自社による店舗展開への過剰投資による財務体質の悪化によって、多くのブランドが成長の踊り場に直面しました。

 こうした中で、先駆者たちは従来型のECから実店舗まで自社でやり切る垂直モデルから、戦略的な水平展開へ舵を切りはじめています。Rothy’sのデイナ・クアンベック氏は、2026年2月から、ブランドを米国最大級の高級百貨店であるノードストローム全店で展開すると語りました。Rothy’sにとってノードストロームへの展開は、単なるチャネル拡大ではなく、ブランド価値を毀損せずに顧客基盤を広げるための新しい取り組みなのです。

 このようなパートナーシップによる水平展開の動きは、DTCブランドの頭打ちを突破する動きとして、数年前から見られています。例えば、Z世代の熱狂的な支持を集め、現在も成長を続ける代表的なビューティーブランド Glossierは、2023年からLVMHグループの世界最大規模のリテーラーであるSEPHORAと提携し棚を広げました。これによって収益構造を改善し、現在は旗艦店などの垂直な体験の場への再投資を行って顧客体験やサービスを充実させています。リテーラーとの連携による販路の拡大と自社拠点での深い体験を組み合わせる垂直と水平のハイブリッドな成長モデルは、DTCの新たな定石となりつつあるのです。

マーケターに役立つ最新情報をお知らせ

メールメールマガジン登録