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ARC'TERYX、YETIほか エージェンティック・コマース時代のCXはNYの実店舗にどう実装されている?【米国現地レポート by NODE】

前回の記事:
エージェンティック・コマース時代のCX ー キーワードは「フライホイール型CX」「Authenticity」「店舗のブランド体験メディア化」【NRF2026レポート by NODE】
  NODEは、生活者インサイトを起点に企業の新規事業や顧客体験の変革を支援するコンサルティングファームだ。企業の枠を越えた専門家コミュニティを背景に、CX設計、マーケティング変革、データ活用などを通じて事業価値の創出に伴走している。

 そんなNODEが、毎年ニューヨークで開催される世界最大級のリテールイベント「NRF Retail’s Big Show」を視察。前回の記事では、その模様を「エージェンティック・コマース時代のCX」における3つの大きな変化としてレポートした。
 
 今回は、その3つの大きな変化が、現地ニューヨークの実店舗でどのように実装されていたかをレポートする。Aimé Leon Dore、ARC'TERYX、YETI、Brooklyn Running Company、そしてPOP-UP Grocerの5つの店舗は、「フライホイール型CX」「Authenticity(本物、正当性)」「店舗のブランド体験メディア化」をどう具現化していたのか。
 

3つの大きな変化は、実店舗でどう実装されている?


 前回は、NRF 2026での議論を通じて見えてきた「エージェンティック・コマース時代のCX」における、以下の3つの大きな変化について解説しました。
  1. エージェンティック・コマース時代のCXは「ファネル型」から「フライホイール型」へ
  2. AIは体験価値をあくまでブーストする装置、体験価値のコアはブランドの“Authenticity(本物、正当性)”へ
  3. 店舗は「売り場」から「ブランド体験メディア」になり、LTVジャーニーの起点へ

本記事では、この3つの変化が、ニューヨークの実店舗において、実際どのように実装されているのかをお話しします。
    
株式会社NODE
マーケティング&セールス統括/シニアディレクター
石田 直行

アパレルのEC及び店舗プロデュース事業を起業後、デジタルコンテンツプロダクションへの参画を経て、アクセンチュア入社。自動車メーカー・証券会社・生命保険会社・官公庁などのマーケティング支援プロジェクトに従事。マーケティング戦略やデジタル戦略・SNS戦略などの立案から施策の実行支援まで幅広く手掛ける。2023年 NODE入社。2024年よりマーケティング&セールス統括に就任。
 

<1>Aimé Leon Dore(エメ・レオン・ドレ)@Soho:「NYらしさ」というAuthenticity

 

【ブランド概要】
NY出身のクリエイティブディレクター、テディ・サンティス(Teddy Santis)が2014年に創業。クイーンズで育った彼自身の背景を投影し、90年代のヒップホップ、バスケットボール、そしてプレッピースタイルを融合させた「現代のNY」を象徴するブランドです。サンティスはニューバランスの「Made in USA」コレクションのクリエイティブディレクターも務め、990・993モデルなどを世界的なトレンドへと押し上げた立役者でもあります。


 2014年に創業以降、急激に人気が高まり成長を続ける同ブランドですが、サンティスはブランドが一過性のトレンドとして消費されることに強い危機感を抱き、「ブランドの世界観とストーリーテリングの強化」への投資を続けてきました。

 SOHOにあるフラグシップストアには「店舗は顧客が単に購買する場所ではなく、過ごす場所であるべきだ」というサンティスの強い哲学が現れています。

【実装ポイント1】五感を刺激する「NYのリビング」への没入

 一歩足を踏み入れると、そこは店舗というより「洗練されたニューヨーカーの友人のリビング」。空間の中央に鎮座するヴィンテージポルシェ、ペルシャ絨毯、壁一面の本棚、そしてスピーカーから流れるジャズ、友人のおしゃれなワードローブを眺めながらリビングでくつろぐような感覚になります。高級店特有の緊張感はなく、ニューヨーカーの美学が細部まで宿った空間に身を置くことで、ブランドの世界観へ一気に引き込まれます。



【実装ポイント2】「コミュニティ・ホスト」としてのスタッフ

 店内のスタッフも、単なる販売員というより「Aimé Leon Doreコミュニティの一員」としてそこに存在しているように見えます。マニュアル通りの制服ではなく、ブランドのアイテムを「いかに自分らしく、NYの街に馴染ませるか」を表現しているようです。友人のように自然体で、かつ誇りを持ってゲストを迎える彼らの接客と佇まいこそが、顧客にとって「このコミュニティの一員になりたい」と思わせるブランド体験となっています。



【実装ポイント3】「コミュニティの証」を持ち帰るアイテム展開

 圧巻の世界観を体験した最後に、ロゴ入りのキャップやトートバッグといった手に取りやすいアイテムが並びます。これらは単なるお土産ではなく、この美学を共有する「コミュニティの一員である」というアイデンティティを証明するアイテムのようでした。こうした一品を手にすることが、店を出た後の日常においても、ブランドとの繋がりを維持し続けるための巧みな仕掛けになっていると感じさせられます。

【実装ポイント4】「Café Leon Dore」でブランドの世界を日常の一部にする

 店舗の横には本格的なカフェ「Café Leon Dore」が配置されています。服を買う予定がなくても、ラテを片手に店内のベンチで友人と談笑したり、スタッフと世間話をしたり。「買い物」を目的化せず、日常の「過ごし方」の中にブランドを組み込んでもらう。こうした設計により、ブランドとの接点を、日常の延長線上に置くことに成功しているのではないでしょうか。



【まとめ】Authenticityが「フライホイール型」CXを実現させる

 従来のファネル型アプローチでは、ブランドによっては、あえて排他的であることで希少価値を演出してきました。しかし、Aimé Leon Doreは「わかる人だけわかればいい」という拒絶や排他性はなく、「この世界観に共感するなら、誰でも歓迎する」というオープンなスタンスをとっています。

 それを象徴するのが、親しい友人や知人をモデルに起用する「Friends and Family」キャンペーンです。プロのモデルではなく、ブランドを取り巻く「リアルなコミュニティ」を可視化することで、共感の渦(フライホイール)をつくり出しています。広告で広く認知を取った上でふるいにかけるアプローチではなく、コアなファンが集まり、その熱量がまた新しいファンを惹きつける好循環が回っていると感じました。
 

<2>ARC'TERYX(アークテリクス)@Soho:店舗はブランドパーパス(存在意義)を理解してもらうための体験メディア

 

【ブランド概要】
1989年にカナダ・バンクーバーで誕生した、アウトドアウェアの最高峰ブランド。その哲学は「デザイン、職人技、パフォーマンス」の追求にあり、過酷な条件下でも耐えうる品質と、無駄を削ぎ落としたミニマルな美学を両立させています。


 2024年8月にオープンしたSOHO店は、北米最大級の旗艦店。ここでは、単に商品を「買う」だけでなく、ブランドが大切にしている思想や空気感に自然と触れることができます。1階から地下へと続く導線そのものが、ブランドパーパスを理解するための店舗体験となっています。

【実装ポイント1】「雪山から都市へ」接続するグラデーション陳列

 入口付近には、過酷な自然に挑むための本格的なプロダクトが並びます。その先にある壁面の巨大サイネージには、猛吹雪の雪山に挑むクライマーの映像が映し出され、一瞬で「最高峰のパフォーマンス」というブランドのAuthenticity(本物、正当性)を伝えます。そこから店内の奥へ進むにつれ、その機能性を維持したままアーバンライフに馴染む別ラインへとグラデーションのように変化していきます。

 ニューヨークでボルダリングなどのアクティビティが実施できるマップが貼られており、アークテリクスが自分たちのアーバンライフにどう恩恵をもたらすかを直感的に理解させようとしています。

 1階の最奥部には、よりライフスタイルに近いカフェを配置。リラックスできる空気づくりを行い、ブランドの世界観に自然と没入させてくれる設計になっています。





【実装ポイント2】「サーキュラーエコノミーの実装と可視化」 

 地下へ降りると、真っ先に目に飛び込んでくるのがガラス張りの修理工房です。職人が一点一点ウェアを修繕するミシンの音、並べられたリペアパーツ。職人がミシンを操り、一点ずつウェアを蘇らせるプロセスをあえて「見せる」ことで、製品の耐久性に対する自信と、ブランドの誠実さを直感的に伝えています。自分の持っているウェアがいかに大切に作られ、また直せるものなのか。その「品質への信頼」が、説明書を読むよりもダイレクトに伝わってきます。









【実装ポイント3】「新品以上の価値」に出会うRe-Birdサービス

 リペアされた製品(Re-Bird)の販売スペースでは、現行ラインにはないレアなモデルや、リペアによって生まれた「アクセントカラーの切り返し(一点もの)」に出会うことができます。「お得な中古品売り場」ではなく、「世界に一着だけの特別なアイテム」を探す場になっています。

【まとめ】ブランドのLTVジャーニーの入り口としての店舗

 一連の店舗体験を通して、商品を買って終わりではなく、そこからブランドとの関係性が始まることを強く意識した店舗づくりとなっていると感じました。 接客してくれるスタッフも、この「長く使い続ける文化」に強い誇りを持っていて、メンテナンスの方法を自分のことのように熱心に教えてくれます。

「ブランドパーパス(存在意義)」を、押し付けがましくなく、五感で楽しめる体験に落とし込んでいる。そんなアークテリクスの思想が凝縮された、非常にエネルギッシュな店舗でした。

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