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ARC'TERYX、YETIほか エージェンティック・コマース時代のCXはNYの実店舗にどう実装されている?【米国現地レポート by NODE】

 

<3>YETI(イエティ)@Flatiron:土台となるAuthenticityを「自分ごとのワクワク」へ拡張

 

【ブランド概要】
テキサス州オースティンで創業者であるライアンとロイ・シーラー兄弟が「壊れないクーラーボックスを作りたい」という想いから2006年に生まれたブランド。その高い機能性からアウトドアや登山の愛好家からの指示にも厚く、近年では、有欲をくすぐるインダストリアルなデザインが都市部の感度の高い層にも刺さり、今やライフスタイルブランドとしての地位を確立しています。


 YETIの面白いところは、アークテリクスが「ブランドパーパス(存在意義)」を前面に出しているのに対し、より「個人のライフスタイルへの浸透」に振り切っている点です。 店内を回ってみて感じたのは、「顧客とブランドの接点をどう設計するか」という工夫の積み重ねでした。店舗の設計は、まず「ブランドのAuthenticity」「プロダクトとしての信頼」を見せ、そこから「自分ならどう使うか?」という顧客の想像力を刺激する、以下のような流れるようなステップで構成されています。

【実装ポイント1】 機能美を「クリーン」に伝える

 もともと過酷なアウトドア現場で使われる無骨な道具ですが、店舗では驚くほどクリーンでモダンにディスプレイされています。まず「道具としての本質的な良さ」を直感的に伝えて、自分たちのAuthenticityである「機能美」を、都市の生活空間でも違和感なく馴染むクオリティとして提示しています。

【実装ポイント2】 ローカルにコネクトする「NY限定デザイン」

 店内には、ニューヨークをモチーフにした限定デザインが並びます。テキサス生まれのブランドであっても、地元のカルチャーを尊重する姿勢を見せることで、一人ひとりに愛着を持たせるエリア密着型の提案が非常に巧みです。



【実装ポイント3】 「自分だけのアイテム」を作るカスタマイズ体験

 圧巻なのは、その場でできるカスタマイズです。圧倒的なカラーバリエーションの中から選んだ一点に、自分の名前やロゴを刻印する。この「自分だけの特別なもの」になるプロセスが、単なる買い物を「唯一無二のブランド体験」へと昇華させています。



【実装ポイント4】「次の週末」を一緒に語るホスピタリティ

 スタッフは商品スペックの解説以上に、「次の週末、どこへ遊びに行くの?」「どんなときに使いたいの?」と気さくに話してくれます。プロダクトを売るのではなく、それを使った先にある「イケてる日常」を一緒にイメージしてくれる、かっこいい友達のような印象を受けました。

【まとめ】「アイコニックな一点」が日常を彩る

 YETIは、あれこれとカテゴリーを広げすぎるのではなく、あくまで「クーラーボックスやタンブラー」といったアイコニックな製品群を軸に、その活用シーンを広げる戦略をとっています。オフィスやジム、ピクニックといったあらゆる日常シーンにYETIがある。機能美という強い土台があるからこそ、これを手に入れることで「自分の日常が少しアクティブでイケてるものになる」という実感を伴ったワクワク感を生んでいます。プロ仕様のプロダクトを、自分らしいスタイルで使いこなす喜びを感じさせてくれる店舗体験でした。
 

<4>Brooklyn Running Company(ブルックリン・ランニング・カンパニー)@Brooklyn Williamsburg:コミュニティが主役の店舗──「走る」がすべての起点

 

【ブランド概要】
2013年に創業者のマシュー・ロセッティが「ブルックリンのランナーに本物のサービスを」という想いから立ち上げた独立系ランニング専門店。スタッフ全員が情熱的なランナーであり、その深い専門知識に基づいたフィッティングとアドバイスが特徴。地域のランニングカルチャーを支え、育てるコミュニティの拠点として、初心者からアスリートまで幅広い層から絶大な信頼を寄せられています。


 ブルックリンのウィリアムスバーグのドミノパーク周辺は、ランナーにとって最高に気持ちの良いリバーサイドエリア。その中心に位置するこのショップは、コミュニティのハブとして機能しています。ここでは常に「売ること」よりも先に、「走ること」があります。

【実装ポイント1】コミュニティが主役の店舗

 彼らが最も重視しているのは、ソーシャルランやイベントを通じた「走る楽しさ」の連鎖、そしてそれを分かち合うカルチャーづくりです。象徴的なアクションとして、初心者からベテランまで、誰もが置いてけぼりにならないペース設定で行われるランニングイベントを頻繁に開催。単なる運動の場ではなく、仕事もバックグラウンドも異なる人々が「走る」という共通言語でフラットにつながれる、心地よい場を提供しています。それはお店づくりにも現れていました。



【実装ポイント2】ランナーのための空間づくり

 店に入ってすぐ見えるのは大きな掲示板。地元のレース情報やコミュニティの告知情報が並びます。商品を整然と並べることよりも、ランナーたちが立ち寄り、情報を交換し、交流できる「コミュニティ」としての空間づくりが優先されていることが分かります。

【実装ポイント3】ランナーによるランナーのためのリアルなアドバイス

 スタッフは全員が現役のランナーであり、アスリートとしての視点を持っています。最新の計測機器を備えながら、それ以上に「あのコースの登りはきついよね」「雨の日はこれがいいよ」といった、実体験に基づいた会話がされていました。この「身体感覚に基づく対話」が、リアリティを持ち、顧客にとって代替不可能な価値になっています。



【まとめ】「信頼」を起点としたランナーコミュニティのハブ

 週に数回開催されるソーシャルランニングでは、初心者からベテランまでが店に集まり、共に走ります。「共に走る → 交流する → 信頼/リスペクトが生まれる → 信頼/リスペクトする人から商品を選ぶ」、ブランドのAuthenticityがコミュニティという大きな渦(フライホイール)を生み出し、その渦がまた新しいランナーを巻き込んでいく。まさにエージェンティック・コマース時代における、「信頼」を起点としたLTVジャーニー(=ブランドとの継続的な関係性の中で顧客生涯価値〈LTV〉を高めていく一連の体験プロセス)の入り口が実装されていました。


 

<5>POP-UP Grocer(ポップアップ・グローサー) @West Village:「新たな好きなものに出会える」体験メディア型店舗

 

【ブランド概要】
2019年にエミリー・シールド(Emily Schildt)が創業した、新進気鋭の消費財に特化したキュレーション型ショップです。「Z世代のパントリー」をテーマに、全米各地でのポップアップ展開で熱狂的なファンを獲得。2023年にウェストビレッジにオープンした常設店は、まだ世に知られていないインディーズブランドと感度の高い消費者を結びつける、新しいリテールの形として注目を集めています。


 POP-UP Grocerの強みは、その徹底したキュレーション力。これまでのポップアップ展開での実績を通じて、Z世代を中心に「ここに来れば、自分の価値観に合う『好きなもの』に必ず出会える」という信頼を築いています。その強みが最大限発揮されるお店づくりとなっていました。

【実装ポイント1】「発見」を演出するギャラリー陳列

 通常のスーパーのように「調味料」「飲料」といった棚割りではなく、「Night Routine」や「BRAKFAST-ISH」といった、生活のシーンに基づいたキュレーション棚が並びます。

 パッケージデザインが主役になるよう、等間隔に計算されて並べられた商品は、まるでアート作品。目的買いではなく、店内を回遊しながら「まだ見ぬお気に入り」を偶然見つける、セレンディピティが店全体に仕掛けられています。



【実装ポイント2】信頼のフィルターとしての「店そのもののブランド化」

 店の中央にはキャッシャーを兼ねたコーヒースタンド、窓際にゆったりとしたイートインスペースが配置されています。買ったばかりの見たこともないスナックをその場で開け、コーヒーと共に楽しむ。「購買から体験」が即時できる設計により、店舗を「友人と新しい好きなものについて語り合うハブ」へと昇華しています。



【まとめ】ファンがファンを呼ぶ「好き」の循環、店舗はフライホイールのハブに

「自分たちの価値観を体現してくれる場所」として共鳴したファンが、店内で知らなかった「好き」と出会い、その場で味わう。その体験は、SNSでのシェアや友人へのギフトといった形で自然に外部へと連鎖し、新しい会話のきっかけを生んでいきます。

「自分たちの好きなものがここにある」という共通の価値観を持った人たちが集まり、その熱量がまた次のファンを呼ぶ。消費財という日常に極めて近いカテゴリーにおいて、店舗が「信頼のフィルター」となり、ファン同士をつなぐハブとして機能することで、フライホイール型CXを体現していました。
 

エージェンティック・コマース時代に店舗が果たすべき「5つの役割」


 最後に、エージェンティック・コマース時代に「店舗」が担うべき役割についてまとめます。これからの時代に支持される店舗には、共通して5つの役割が求められると考えています。

1:「循環の起点」
店舗を売上の「終着点」ではなく、LTVが始まる「循環の起点」と定義すること。
自分たちのAuthenticityを伝え、LTVジャーニー(=ブランドとの継続的な関係性の中で顧客生涯価値〈LTV〉を高めていく一連の体験プロセス)の入り口とすること。

2:ブランドの思想に触れる「体験メディア」
「このブランドがある暮らし」という新しい自分の可能性を発見する場であること。予期せぬ出会いを通じて、顧客のライフスタイルをアップデートするメディアとしての役割。

3:Authenticityを体現した「没入体験」
空間設計、音、香り、そしてスタッフの想いを感じる接客を通じて、ブランドのAuthenticityを直感させること。五感を通じた「没入体験」こそが、アルゴリズムでは代替不可能な「手触り感のある信頼」を醸成する。

4:街の文脈を編み込む「ローカルへのリスペクト」
その土地のカルチャーを尊重し、地域の一部として溶け込むこと。街の文脈を店づくりに編み込む姿勢が、ブランドを「外から来た店」ではなく、顧客にとっての「自分たちの場所」へと変える。
 
5:価値観が共鳴する「コミュニティのハブ」
同じライフスタイル、美意識を持つ人々が自然と集まり、繋がり、ブランドを語り合える拠点となること。店がコミュニティの「ハブ」として機能することで、ブランドは顧客の生活に深く根ざし、自走し始める。

 これから求められるのは、自分たちのAuthenticityとは何か?を考え、その中で最適な店舗の役割を導くことではないでしょうか。本稿が、今後CXを実装する皆さまにとって、新たなインスピレーションを得る一助となれば幸いです。

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