関西発・地方創生とマーケティング #43
京銘菓「聖護院八ッ橋総本店」はなぜ300年以上続くのか? 鈴鹿可奈子社長に聞く「変えるもの・変えないもの」
2026/04/07
- 企業経営,
京の老舗のエコステム
京都に生まれ育ってお商売されている方とのつながりは、商売に生きるものなのか。鈴鹿さんに聞いたところ、「ずいぶん生きている」とのことです。
一番濃いつながりとして名前が挙がったのは「百味會」という会。家族経営されている小さいお店から、虎屋さんのような大きなお店まで、京都の味に関する64の老舗が会員に名を連ねています。「大きいから偉い」ということはなく、対等な関係で、会長は持ち回りで務められているそうです。皆さん一国一城のあるじで、家族ぐるみのつながりも強いので、経営者や「後継ぎ」にとって心強い存在です。
たとえば、鈴鹿さんが聖護院八ッ橋総本店に入社した頃、当時の社長であるお父さまについて「何を考えているか分からない」とこぼすことがありました。すると、年齢的にちょうど中間ぐらいの方が、お父さまに「もうちょっとこうしてあげたら」と言ってあげたり、鈴鹿さんには「お父さん、こういう風に考えているんじゃないかな」と言ったりして、取り持ってくれたそうです。そういうふうに、「跡継ぎ」としての経験を持つ先輩たちが、利害関係なく相談に乗ってくれるのは、とてもありがたいことだと言います。会員は一業種一品目と決まっているので、競合の心配もないとのこと。
他にもいろんな会があり、たとえば「洛趣会」は、食に関わらず京都の文化に携わる一業種一社の会。毎年11 月 3、4 日に開かれる招待制の展示会には、店主全員が着物姿でお客さまをお迎えします。
「祝日に重なっているので、毎年家族みんなで行きます。私も小さい頃からお姉さん、お兄さんに遊んでもらって、その人たちが今は社長になっていたりする。これのいいところは、『自分は 跡継ぎなんだ』という、自覚が芽生えるところですね」
また、京都には花街もあります。「一見さんお断り」の世界のため、大事な情報が集まることも。こちらも京都でお商売をする上で大事な存在であり、独特なルールを先輩方から教わることもあるそうです。
一見、閉鎖的な地縁・血縁コミュニティに見えますが、鈴鹿さんは「家を守ろう、という同じ感覚を共有できることが大事なのでは」とおっしゃいます。損得勘定なく相談できる相手がいるというのは、とても心強いこと。一般的には売上のためにコンサルに頼りがちなところも、老舗では一時の売上よりも「続くこと」が大事な場合もある。ある意味、すごく合理的な継承システムであり、数百年かけて培われたエコシステムと言えるのかもしれません。企業の在り方について、あらためて考えさせられます。
なぜ300年も続くのか?
なぜ聖護院八ッ橋総本店は、300年以上も続いてきたのでしょう?
都ホテルもそうですが、長く続けていると、良い面だけなく、悪い面も出てきます。たとえば「慢心」。どうしても、老舗という安心感にあぐらをかいてしまうということですね。鈴鹿さんも、自分たちの世代と、日本経済が右肩上がりだった「良い時代」を知っている世代とでは、ギャップを感じることもあると言います。会社の労務・給与体系や人事評価なども、昔どおりとはいきません。鈴鹿さんは昔からの会社の文化や、年功序列的な秩序も尊重しつつ、時代に合ったものに緩やかに変えていっているとのことです。
また、「長く続けるための秘訣」を聞くと、「味を大事にすること」だと言います。昔の味を頑なに守るという意味ではなく、「今の自分たちが一番美味しいと思うもの」を日々、追い求めている。材料や、味の流行は時代で変わるし、その年のコメの出来栄えによっても変わってくる。鈴鹿さんは毎日、必ず商品を食べて味をチェックされています。社員さんも商品に違和感があると、「ちょっとニッキが」などと、遠慮なく指摘してくるそうです。
コメはブレンド米を使っていて、信頼を置くお米屋さんが作況に応じてブレンドしてくれるそうです。これも、特定の産地に依存すると、飢饉や環境変化に対応できないことからの老舗の知恵。
「老舗だからといって味を変えないわけではなく、そもそも、そういう柔軟性を持っているものです」
ホテル業界にいる者としては、身につまされるお話です。コロナでインバウンド偏重の危険性を認識したのに、平時に戻ると、やはりボリュームゾーンの中国人観光客に依存してしまい、今また訪日自粛が起こると、あらためて「特定のインバウンドに依存すべきではない」と議論している。聖護院八ッ橋さんのような老舗は、とっくの昔からリスク対策をして、「変えてはいけないもの(=美味しさ)」を明確にして、それ以外は柔軟に変化させてきている。これが、300年も続く秘訣なのかもしれないと思いました。

「一歩先」を行くために
やっぱり聖護院八ッ橋は美味しいね。さすがだね。そう言われ続けるために「常に時代の一歩先を行きたい」と、ご自身の感性を研ぎ澄ませることを意識されています。
話題のお菓子は和洋を問わず、必ず食べる。コロナ前は、年に一回はフランスに行って、1日で10 件以上のカフェを回り、お菓子のトレンドをチェックされていたそうです。
「今は逆に、日本のものをフランスが取り入れるようになっていますけれど」
店主である以上、味の基準になるのはあくまでご自身の感覚ですから、「日々食べているものが蓄積になる」とお考えです。
そんな鈴鹿さんですから、お菓子だけでなく、食全般に対しても意識が高い。お立場上、外食もするけれど、「ベースは家での食事」とおっしゃいます。鈴鹿さんも以前、別の会社にお勤めだった頃は忙しすぎて、食事をおざなりにしてしまうことがあったけれど、ある時、お母さまの「人生で食べる回数は限られている」という考えを聞いてから、どんなに忙しくても一食一食を、大事にされるようになったそうです。お子さんや、やはり食関係の仕事をされているご主人と囲む食卓では、ひと手間をかけて食器を工夫したり、味付けのことを話し合ったりして、食の時間を楽しんでいると言います。
「食事は単なる栄養補給ではなく、楽しむもの。きちんと食事をすることから、自分の好きな味とか、美味しいという感覚も培われていくのではないかと思います」
その思いは八ッ橋や、新しい価値提案であるnikinikiにつながっています。一つひとつの食を、楽しく過ごしてほしい。笑顔があふれてほしい。
「うちが変えないのは『美味しさ』と言いましたけど、『食べることは楽しい』という気持ちかもしれませんね」
ホテル業としても、原材料の高騰や食を巡る考え方が変化する中で、ホテルのレストランがお客さまにどんな価値を提供できるかは、今まさに、向き合っている課題です。楽しい食の時間を提供したい。そんな原点を、鈴鹿さんに教えていただけた気がしました。
- 他の連載記事:
-
関西発・地方創生とマーケティング の記事一覧

- 1
- 2




メルマガ登録














