ニュースと体験から読み解くリテール未来像 #65
【現地レポート】ジャカルタの高級モールで見た、信頼と体験の設計:日本ブランドへの3つの示唆
2026/08/18
前回までは、AlfamartとIndomaretという2大ミニマートを軸に、インドネシア小売の入口を整理しました。日常の購買導線を押さえずして、この市場は語れないという話でした。 首都であるジャカルタには、もうひとつ外せない場所があります。巨大モールです。渋滞、暑さ、歩きにくさ、飲食、礼拝、家族の週末……都市生活の多くがモールに集約されています。今回歩いて見て強く感じたのは、「高級モール=富裕層向けの売場」と見てしまうと、この市場をかなり見誤るということでした。
インドネシア首都ジャカルタのモール事情
数字で見ると、ジャカルタのモール市場は好調ではありません。Colliersの調査では、ジャカルタ圏のモール稼働率は2024年通年で74.7%、2025年9月時点でも74.7%です。平均すると床の4分の1が埋まっていません。
ただ、この「約75%」という数字を平均値のまま受け取ると、現地の感覚とずれます。現地で強く感じたのは、バラつきの大きさでした。
Grand IndonesiaやPlaza Indonesiaのような館は、魅力的な店でほぼ埋まっていて、空き区画を探すのは難しかったです。一方で、Mangga Duaのような古い館に行くと、シャッターが下りたままの区画が並び、フロア単位で人の気配が薄い場所もありました。
つまり市場全体が4分の1空いているのではなく、ほぼ満床の館と、空きだらけの館が同じ都市に同居しているのです。平均値は、その二極化をならした結果です。
インドネシアの生活者はモールに行きます。2024年秋から2025年春にかけて実施された来館者調査(有効回答268人)では、モールを選ぶ理由の上位が「商品を直接試せる」55%、「オンラインのようにだまされるリスクを避けられる」54%、「モール限定の割引がある」47%でした。試せることと、だまされないこと。この2点が来館理由の中心にあります。
モールは公共性を持つ社会インフラともいえる
日本から見ると、抜け落ちやすい前提があります。年間を通して暑い都市では、モールは商業施設であると同時に、公共空間の代わりだということです。
研究でも同じ見方が並びます。都市研究誌「Cities」に2025年に掲載されたMichal Jan Grzegorzewskiの論文は、ジャカルタのモールを「空調の効いた避難所」と位置づけました。暑さ、渋滞、洪水、大気汚染といった屋外環境から人が退避する先がモールであり、その結果として公共生活が私有空間の中へ移っている、という整理です。
バリのミレニアル世代・Z世代を対象にした2025年の調査(注1)でも、屋内のサードプレイスとして最も選ばれていたのはモールでした。理由は空調、座れる場所、飲食、安全性です。研究者はこれを、公共空間の整備が追いつかない都市で、屋外の気候条件を補う社会インフラとして機能していると説明しています。
注1 「Shopping Malls as Urban Third Places for Generation Y and Z in Bali」(掲載誌:Architectural Research Journal)
モールは高所得者向け高級ブランドだけを見る場所ではない
2006年に開業した中央ジャカルタの大型高級モールであるGrand Indonesiaに入って最初に感じたのは、想像以上に整っているということでした。空調が効き、通路は広く、外資ブランドのサインが並びます。
UNIQLO、MUJI、Sushiro、Sephora、ZARA、Guardian、Sociolla。日本で見慣れた名前がいくつもあります。化粧品ではShiseido、KOSEなど日本勢も存在感を出していました。
見慣れたブランドが並んでいるからこそ、逆に違いが見えてきます。KOSEの小林祐樹さんが繰り返し話していたのは、次のような趣旨のことでした。
「ジャカルタのモールは、単に高所得者だけを見る場所ではありません。外資や日系のブランドが、インドネシアで受け入れられるかを試す場所でもあります。」
ブランドが現地で何を変え、何を変えずに出しているのか。そこに情報があります。
【視察同行者プロフィール:小林祐樹さん】
PT. INDONESIA KOSE President Director/Managing Director(当時)として、現地法人の経営全般を担っています。インドネシアの現地流通、ビューティ市場、商品設計、H&B・化粧品売場の見方について、今回のジャカルタ視察で多くの示唆をいただきました。

モールごとの勝ち負けが明確
もうひとつ、小林さんの指摘で重要だったのが、モールを一括りにできないという点です。ジャカルタでは交通網が十分に整っていないため、複数のモールを鉄道や徒歩で回遊するというより、一つひとつへ車で向かう感覚が強くなります。
その結果、モールごとの勝ち負けがはっきりしやすくなります。同じモールでも、館内の百貨店が閑散として見える一方で、同じ館のドラッグストアや専門店には人が集まっている場面もありました。日本のように「駅前だから人が来る」という前提が働きにくく、館の集客力とテナントの引力が直接効いてきます。
1990年開業のジャカルタ初期の本格的ラグジュアリーモールであるPlaza Indonesiaに移ると、空気はさらに変わります。Grand Indonesiaが「大きく、外資ブランドを一覧できる場所」だとすれば、Plaza Indonesiaはラグジュアリー色が強く、館全体に上質感があります。
2モールの共通テナントである食料品店 The Food Hallも、Grand Indonesiaより豪華に感じました。輸入品、青果、即食、ギフト的な見せ方。価格ではなく、安心感と体験価値を売っている売場でした。




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