ニュースと体験から読み解くリテール未来像 #65
【現地レポート】ジャカルタの高級モールで見た、信頼と体験の設計:日本ブランドへの3つの示唆
2026/08/18
ビューティ売場が示す「信頼の条件」
最も現地化が見えたのは、ビューティ売場でした。
Plaza Indonesiaのドラッグストア Guardianでは、K-beautyの存在感が非常に強く、専用棚のように展開されていました。日本のドラッグストアで見る韓国コスメの棚とも似ていますが、ジャカルタではそれがより前面に出ています。
小林さんによれば、インドネシアのビューティ市場では、ハラル対応やBPOM(食品医薬品監督庁)登録、正規品であることの訴求が非常に重要になります。日本では「よい商品なら売れる」と考えがちですが、その前段に、安心して使えるか、制度的に問題がないか、正規流通かという確認が入ります。
興味深かったのは、売場に人が少ないことでした。平日の日中という時間帯の影響もありますが、日本の化粧品売場のように美容部員が細かく接客するというより、棚、ランキング、ブランドの見せ方で買わせる構造に近い。
無人に近い状態で商品を選ぶなら、生活者は何を手がかりにするのか。ランキング表示、レビュー、SNSでの露出、ハラルマーク、正規品保証、価格プロモーション。こうした「接客の代替物」が効いてきます。
インドネシア発のビューティ専門小売・ECであるSociollaを見ると、さらにわかりやすくなります。ECから成長した現地発のビューティ専門小売で、店頭では正規品保証、レビューやアプリとの連携、若年層が試しやすいブランド編集が前面に出ています。ECで情報を得て、店舗で確認し、またアプリに戻る。その導線を前提にした売場です。
日本でOMOというと、アプリ会員、EC在庫、店舗受取、ポイント連携の話になりやすいのですが、ジャカルタのビューティ売場では、もう少し手前に意味がありました。この商品は本物か、自分の肌に合うか、宗教的に問題がないか、SNSで見たものと同じか。それを店舗とデジタルが分担して保証しています。
外資ブランドを編集する現地オペレーター
外資ブランドの店舗を運営する企業大手に、MAP Group(PT Mitra Adiperkasa Tbk)があります。ZARA、Sephora、Starbucks、Burger King、SOGOなど、多くの外資ブランドがMAP Groupを通じて展開されています。
ジャカルタのモールで見られる「外資ブランド」は、本国企業がそのまま持ち込んでいるわけではありません。現地の強いオペレーターが、立地、価格、販促、会員、スタッフ運営まで含めて編集しています。
ZARAの店舗デザインはイギリスの最新店舗同様に新しく、個室が連なるような新フォーマットや、クリック&コレクトの受け取りカウンターもありました。服をたくさん並べて売るというより、来店体験とオンライン購買をつなぐ設計です。
UNIQLOでは、インドネシア製の商品が日本と大きく変わらない価格で並んでいました。インドネシアはアパレル生産国でもあります。生産地であると同時に消費地でもあるという構図です。ただし売場が極端にローカル化しているようには見えず、標準化された強さで成立していました。
モールには高級アスレジャーブランドであるAloもありました。米国発のプレミアムスポーツウェアで、運営は本国直営ではなく、MAP系のPT Mitra Fashindo Abadiです。
スマイルエックス合同会社代表の大西理さんは、Aloを次のような趣旨で見ていました。
「Aloは服を売っているというより、ヨガやトレーニングという生活シーンごと持ち込んでいます。価格が高くても、その文脈が受け入れられれば成立します。日本のブランドは、モノの品質を説明しようとして、シーンを持ち込めていないことが多いと思います。」
【視察同行者プロフィール:大西理さん】
スマイルエックス合同会社代表。事業会社でEC、デジタルマーケティング、リテール領域に長く携わり、近年はファッション企業を中心にEC・デジタル・DX支援を行っています。日本オムニチャネル協会フェローとしても活動しています。

もうひとつ、大西さんが繰り返し指摘していたのが、モールの上階でした。
下の階の外資ブランドだけ見て帰ると、この国のアパレルを読み違えます。上の階に行くほど地元ブランドや個店が並んでいて、価格も客層もまったく違います。
実際、上階にはローカルアパレルやムスリムファッション、個店が並び、下層の外資フロアとは価格帯も見せ方も別物でした。COTTONINKのように、SNSとECから育った現地ブランドが実店舗を増やしている流れもあります。同じ館の中に、外資の標準化された売場と、ローカルの文脈依存の売場が同居しています。
このあたりで、「現地化とは何か」という話になりました。日本企業はどうしても、日本で売れているものをそのまま持っていけば売れるだろうという発想になりがちです。
しかし、実際には強い売場ほど、商品そのものよりも見せ方と価格の設定、使われる場面が現地に合わせて組み替えられていました。高級モールは出店先である以前に、ブランドをどう見せれば信頼されるかを観察できる場所でもあります。
日本ブランドのクオリティ・安心感をインドネシア人は理解していますが、実際に購買につながるかは、価格やどこで売っているかのほうが重要な要素です。したがって、それらをよりよく知っているローカル企業とどう組むかがBtoCのビジネスには重要です。
こういったマーケティングのローカライズが重要であり、国自体として内資企業に対する優遇が強いので、それを活かさない手はありません。
日本企業への3つの示唆
視察を踏まえた、日本企業・ブランドへの示唆は次の3つです。
信頼の条件を仕様として定義する
ハラル、BPOM、正規品保証、レビュー、店頭体験。これらは販促ではなく、購入が成立する前提条件になり得ます。日本側で先に定義し、現地運営に落とし込める形にする必要があります。誰と組み、どの価格帯で出すかが勝負
MAP Groupのような現地オペレーターが外資ブランドを編集している現実を踏まえると、どのモールに出るか以上に、誰と組み、どの価格帯で、どこまで任せるかが重要になります。「日本ブランドだから売れる」を前提にしない
日本ブランドは強いのですが、韓国、欧米、ローカルブランドも強い。日本らしさの主張だけではなく、商品・売り方・体験の翻訳がなければ日常化しません。館の上階に並ぶ地元ブランドまで見て、初めて競合が見えます。次回は、高級モール以外のローカル商業に注目します。
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