ニュースと体験から読み解くリテール未来像 #66

【現地レポート】高級モールとローカル商業の「間」に見えるジャカルタのリアル:小売は、都市の不便を埋めている

前回の記事:
【現地レポート】ジャカルタの高級モールで見た、信頼と体験の設計:日本ブランドへの3つの示唆
 前回は、インドネシアの首都ジャカルタの高級モールを、ブランドが現地で受け入れられるかを試す場所として考察しました。

 今回の視察でより印象に残ったのは、高級モールではない場所でした。かつて日本人街として知られたBlok M(ブロックM)。往時の賑わいを残すMangga Dua(マンガドゥア)。中華系スーパーのHapimart。商業エリアの一角にあるShopee Expressの受取拠点。そして、地図上では近いのに、歩くとたどり着けない都市動線です。
 

渋滞がひどくてもECが成長するジャカルタ


 TomTomの2025年集計では、ジャカルタ市内の平均渋滞レベルは59.8%、10kmの移動に26分19秒かかっています。2024年より1分4秒悪化しました。MRTや高速道路の整備が進んでも、都市内の移動コストは下がっていません。

 一方でECは伸びています。e-Conomy SEA 2024では、インドネシアのECの流通取引総額は2024年に650億米ドル、前年比11%増で、東南アジア最大です。デジタル経済全体では900億米ドル規模とされます。さらに地域全体では、動画経由の販売がECの流通取引総額の20%を占めるとされ、2022年の5%未満から短期間で大幅に上がっています。

 つまり、移動は重いのにECは伸びている。この2つは矛盾しません。移動が重いからこそECが伸び、ECが伸びるから受け取る場所が必要になります。配送を担うのはGojekやGrabを含むバイク中心の網です。車では入れない道をバイクが埋め、その先を受取拠点が埋めています。

 前回、「モールの稼働率は平均で約75%だが、満床の館と空きだらけの館が同居している」と書きました。同じことが、館の外でも起きています。磨かれた高級モールと、シャッターの目立つ古い商業ビルと、歩道の上の屋台と、受取拠点が、同じ生活圈に層をなしています。
 

Blok Mで見た、EC受取拠点の意味


 Blok Mは南ジャカルタの商業・交通結節エリアです。日本食店やカラオケのある旧日本人街というイメージを持つ人も多いと思いますが、実際に歩くとその印象だけでは捉えきれません。MRTの駅があり、バスターミナルがあり、トレンドの先端を行く飲食店が出店したり、若者が集まる場所として再編集されつつあります。

 そのBlok Mで印象的だったのが、東南アジア最大級ECプラットフォームShopee のクイックコマースであるShopee Expressの受取拠点でした。
  
Shopee Expressの受取拠点(2026年6月筆者撮影)

 日本でECの受取拠点というと、コンビニ受取や宅配ロッカーを思い浮かべます。住所が明確で、宅配網が整い、再配達の仕組みもある。その上で、利便性を高めるための機能です。

 しかしジャカルタでは、意味が少し違います。同行した小林祐樹さんとの会話では、住所や配送インフラの前提そのものが話題になりました。

 すべての生活者が、日本のように正確な住所と安定した配送環境を持っているわけではありません。渋滞もあります。建物の入口もわかりにくい。バイク配送は強いのですが、受け取る側の所在地や生活リズムの問題が残ります。そう考えると、受取拠点はECの便利機能ではなく、都市インフラの弱点を補う装置に見えてきます。

【視察同行者プロフィール:小林祐樹さん】
PT. INDONESIA KOSE President Director/Managing Director(当時)として、現地法人の経営全般を担っています。インドネシアの現地流通、ビューティ市場、商品設計、H&B・化粧品売場の見方について、今回のジャカルタ視察で多くの示唆をいただきました。
 

 この点に強く反応していたのが、同じく同行した大西理さんでした。

 店舗かECかという二択ではなく、その間にある「受け取る場所」まで含めて設計しないと、ECは生活に入り込みません。

 生活者がどこで商品を知り、どこで買い、どこで受け取り、どこで返品するのか。島国で、都市内の渋滞も大きく、配送品質にバラつきがある市場では、ECはデジタルだけで完結しません。リアルな受取拠点が、ECの信頼を支えています。

 これは前々回のミニマートの話ともつながります。AlfamartやIndomaretが生活インフラになっているのは、棚に商品があるからだけではありません。支払い、受取、金融、即食、近接性。生活の小さな不便を吸収しているからです。Shopee Expressの拠点も、同じ役割を担っています。

【視察同行者プロフィール:大西理さん】
スマイルエックス合同会社代表。事業会社でEC、デジタルマーケティング、リテール領域に長く携わり、近年はファッション企業を中心にEC・デジタル・DX支援を行っています。日本オムニチャネル協会フェローとしても活動しています。
  

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