ニュースと体験から読み解くリテール未来像 #01
商品が並んでいるのに、買って帰れない「GU」の新業態を体験してみた【郡司 昇】
無人店舗、AI(人工知能)、モバイル決済…新たなテクノロジーが次々とリテール領域に導入されはじめています。また、大手リテール企業の倒産や、ネット企業による店舗チェーン買収も注目を集めています。本コラムでは、そうした国内外のニュースから可能なものは自ら体験しつつ、今後のリテールのあるべき姿と未来像を紹介していきます。第1回は常設ショールーミング型店舗について、「GU STYLE STUDIO」での体験を踏まえながら記載します。
常設ショールーミング型店舗
2018年末にオープンした新業態の中で、筆者が最も注目したのは、ファーストリテイリング社の新業態「GU STYLE STUDIO(原宿)」でした。店舗には商品が豊富に品揃えされていますが、商品を買って帰ることができない店舗です。いわゆるショールーミング型店舗ですが、最近増えつつある期間限定のリッチメディア的な出店ではなく、常設の店舗です。
https://www.gu-japan.com/jp/feature/gustylestudio
常設ショールーミング型店舗を展開する企業として、海外では男性衣料品のBONOBOS(2017年Walmartが3億1千万ドルで買収)、眼鏡の Warby parkerが有名です。この2つはD2C業態(自らがメーカーであり、自社企画、製造商品を自社ECサイトで販売)の代表とも言われています。
BONOBOSでは「Guideshop」と呼んでいる実店舗を61店舗( 1/11現在)開店しています。筆者は昨年シアトルに行った際、b8ta(今年再訪するので後日コラムで書きます)、 Amazon Booksなどを視察したUniversity Villageでたまたま見かけたので、入店してみましたが、予約していないので接客を受けることはできませんでした。店舗を利用する際は、まずサイトから店と時間を予約してから行く必要があります。予約者の登録情報、購買履歴をタブレットで確認しながら、似合う商品を一緒に探してくれるわけです。
Warby parkerは自宅で試着できる眼鏡ECで、現在90店舗(1/11現在)の実店舗も持っています。リーズナブルな価格だけでなく, ”Buy a Pair,Give a Pair”プログラムによる視覚障害支援の社会貢献プログラムも支持されている企業です。
この2社はEC中心の販売をしてきた中でリアルのタッチポイントが必要と考えて出店をしてきたことが、実店舗中心に成長してきたGUとの大きな違いです。
ショールーミング型店舗の利点
「GU STYLE STUDIO」を紹介する前に、ショールーミング型店舗の利点について考えます。まず、運営者利点は、- ① 店舗に試着見本以外の在庫が不要で在庫費用および管理コストが小さい。
- ② レジ・店頭での精算をはじめとした会計処理が不要。
- ③ ①②で空いたスタッフの時間を接客に回すことができる。
- ④ 陳列スペースが少ないので、空いた場所でディスプレイ陳列に注力することができる。通常より狭い物件にも出店可能となる。
- ⑤ 在庫が一括管理できるので、全社の生産管理が効率的にできる。
というところで、店頭の管理コストが小さく、接客・ディスプレイに注力しやすいということが特徴です。
一方、顧客の利点は、
- ① ネットでは見られなかった実物を見て、体験することができる。
- ② 通常店舗では、自分好みのバリエーション(色等)×自分のサイズが欠品していることも少なくないが、豊富なEC在庫から妥協せずに買うことができる。
- ③ 家まで荷物を運ばないで済む。
- ④ 店頭に並ばず保管され、(他客の返品商品でなければ)他の客が触っていない未着用品を買うことができる。
というところです。特にネット専業で拡大してきた事業が過去の延長線上では限界を迎えたタイミングで①の顧客メリットを重視して出店するという事例がグローバルで見ても多いように感じます。