顧客体験をテクノロジーで拡張する~リテール業界のDXレポート~ #04

渋谷のビル街を花火が舞い、飛行機がすり抜ける。未来のXR体験創出するクリエイター育成も【大丸松坂屋 林 直孝】

前回の記事:
Web3.0は「バーチャルファースト」の時代。20XX年商業施設の購買体験のカギを握るものとは?【大丸松坂屋 林 直孝】
 私は現在、ショッピングセンター(SC)のPARCO(パルコ)や百貨店の大丸、松坂屋などを展開するJ.フロント リテイリング(JFR)を経て、この春より大丸松坂屋百貨店でデジタル戦略推進を統括しています。この連載では、新卒で入社したパルコでの経験を中心に、SCや百貨店においてテクノロジーがどのような思想や方法論のもとに顧客体験を「拡張」し、新しい価値提供につなげているかをご紹介・考察します。

 歴史の中で商業空間を拡張してきた百貨店やSCは、Web2.0からWeb2.5、そしてWeb3.0へと時代が変わろうとする今、VR・ARやメタバース、スマートグラスなどを活用したLBX(Location Based Experience)の向上に取り組んでいます。前編ではその新しい世界観へのビジョンと、リアルとデジタルの空間体験を統合する「空間体験プロデューサー」の必要性についてお話しました。後編では具体的な実践例をご紹介しましょう。
 

「空のF1」を渋谷のど真ん中で


 2024年2月、冬の渋谷の空に特大の花火が打ち上がりました。と言ってもリアルではなくARの世界です。渋谷PARCOの屋上でお客さまご自身のスマートフォンで体験していただきました。従来、花火を体験できる場所は夏の河川敷や海だったと思います。パルコのような商業施設はその体験に必要なアイテム、例えば浴衣などを買っていただくだけの場所でしたが、今後はさらなるテクノロジーの進化によってその体験価値を拡張し、買い物と体験の距離が縮まり、やがて融合していくのではないかと感じます。
  

 さらに2024年10月には「空のF1」と呼ばれるAIR RACEを都市型XRスポーツに進化させた「AIR RACE. X」を、渋谷の商業施設でバーチャル観戦できるイベントが開かれました。AIR RACEは、以前は実際に世界中からパイロットが集まってレースを開催していたのですが、コロナ禍を経て2023年からはパイロットがそれぞれの場所で飛行し、その飛行データを集約してチャンピオンを決める方式になりました。リアルで集まっていた頃は、衝突の危険があるため飛行機は一機ずつ飛んでいましたが、バーチャル空間ではデータを掛け合わせることで同時に飛んでいるように見せられます。お客さまが渋谷PARCOの吹き抜けでApple Vision Proを付けたり、MIYASHITA PARKの屋上にある観戦会場でスマホをかざしたりすると、渋谷のビル街のど真ん中を複数の飛行機が同時に飛び交う迫力のレースを観戦することができるのです。
     
2024年10月に東京・渋谷の複数の商業施設で開催された「AIR RACE X」の観戦イベント

 これらのプロジェクトを主導しているのがXRプラットフォームを提供するSTYLYです。2024年4月からはKDDIなど4社で協働して、空間コンピューティングの可能性拡張を目指したラボ「STYLY Spatial Computing Lab」をスタートさせ、Apple Vision Proや現実の商業施設を活用してどんな面白い体験創出ができるかを探求しています。今年も新たなXR体験を企画中なので、ご期待いただければと思います。

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