リテール・EC

NRF2026レポート:NRFから読み取れる2大潮流と日本企業のための3つの行動原則【300Bridge 藤原義昭氏】

 

未来は予測するものではなく、実装するもの


執筆者:
 
藤原義昭氏
300Bridge 代表取締役

ラグジュアリーリユーストップ企業であるKOMEHYOでマーケティング、IT、マーケティングの役員を務めたのち、ユナイテッドアローズでは執行役員最高デジタル責任者としてPRなどを含めたマーケティング、CRMやデータなどデジタル化を推進しV字回復に大きく貢献したのち、PEファンドにて投資先のデジタル、マーケティングを同時に推進。現在はBX(Business transformation)専門アドバイザリー〈株式会社300Bridge〉代表として、戦略・組織・データを束ね“稼ぐ仕組み”を設計から課題に応じ最適ケイパビリティを編成し伴走している。
 


 2026年1月、ニューヨークで開催された世界最大級の小売展示会「NRF 2026: Retail's Big Show」に初めて参加してきました。大きく分けて、各社のソリューション展示を行う展示会と、業界リーダーによるトークセッションで構成されており、様々な展示、様々な人のトーク、そしてニューヨークの最先端であろう店舗を様々見て回りました。

 今年のテーマとして掲げられたのは「The Next Now(次の今)」という言葉でした。これは、テクノロジーによる変革がもはや「数年先の予測」の対象ではなく、「今まさに実装し、収益を生み出すフェーズ」に突入したことを宣言するものです。

 2025年が「投資と実験」の年であったとすれば、2026年はその「実装と収穫」の年と位置づけられています。要はリーダー企業による「準備は終わった。これから稼ぐぞ」という宣言です。


 私が感じたのは、2つの巨大な潮流の衝突と融合でした。ひとつは、AIが単なるツールから企業のOS(オペレーティングシステム)になり、自律的なエージェントがビジネスを駆動する「エージェンティックAI」の台頭。もうひとつは、デジタル化が進むからこそ価値を増す「人間性の再定義」です。世界のトップランナーたちは、効率化をゴールとせず、AIで生み出した余白を、人間にしかできない「熱狂」や「信頼」へ再投資しています。

 「効率化」に留まりがちな日本のDXから脱却し、世界の「The Next Now」にどう向き合うか。今回はNRF2026から、日本企業が直面する課題と処方箋を紐解きます。

 

AIのOS化 :「使う」から「共に走る」へ

 NRF 2026で提示された最大のパラダイムシフトは、AIが単なる「便利なツール」から、企業活動全体を支える「OS」へと進化したことです。多くの日本企業がAIを「業務効率化のための部分的な導入」に留める中、世界のトップランナーたちはAIを経営の中枢に据え、ビジネスそのものを「AI上で走らせる」段階へと移行しています。


▶︎「Run on AI」への転換:TARGET

 
この概念を最も象徴的に語ったのが、アメリカ最大のディスカウントストアチェーン Targetの最高情報責任者(CIO)であるPrat Vemana氏です。彼は、AI戦略を単独のシステムとして扱うのではなく、企業活動の基盤システム全体をモダナイズし、迅速に向上させるための「Run on AI」モデルへの移行を宣言しました。

 TargetにおいてAIは、単に顧客向けのチャットボットとして機能するだけのものではありません。彼らが重視しているのは「組み込み型インテリジェンス」です。たとえば、MDは、SNSやトレンド情報から生成されたインサイトを貯め瞬時にアクセスし、次シーズンの商品計画を高速で行えるようになります。また、店舗のディレクターは、提供されたスマホを通じてAIからリアルタイムの指示を受け取り、現場での意思決定を最適化します。このように、AIは特定のタスクを自動化するだけでなく、従業員の能力を拡張し、組織全体の意思決定スピードを加速させるインフラとして機能しています。


▶︎エージェンティック・コマース:Google、Walmart

 
この「AIインフラ」の上で実現されるのが、自律的なAIエージェントが顧客の意図を汲み取り、購買プロセスを代行する「エージェンティック・コマース」です。

 Googleのサンダー・ピチャイCEOとWalmartのジョン・ファーナー次期社長兼CEO(2月1日就任予定)の対談では、検索から購買へのプロセスが「キーワード」から「自然な会話と文脈」へ根本的に変化していることが示されました。象徴的なのが、「来週末の釣り旅行」の事例です。 顧客がAIに対し「来週末にアーカンソー州へ釣り旅行に行く」と伝えると、AIエージェントは単に釣り具を表示するだけではなく、現地の天候を予測し、顧客の過去の購入履歴を参照し、必要な道具や食料をリストアップします。さらに、AIは「金曜日の到着に合わせてホテルに荷物を配送する」手配までをシームレスに提案・実行します。

 ここでは、顧客は無数の商品ページを回遊する必要がなく、AIエージェントが発見から物流の手配までを一気通貫で完結させるのです。Googleはこれを「発見」と「決定」の融合であり、小売業者が顧客との関係を維持したまま、AIが裏側で複雑な処理を行う未来と定義しています。


▶︎UCP(ユニバーサル・コマース・プロトコル)と生成コマースの爆発的普及:Google、Shopify、Walmart

 
このような高度なエージェント機能を実現するために、業界全体で標準化の動きも始まっています。GoogleとShopify、Walmartらが共同で策定したのが「ユニバーサル・コマース・プロトコル(UCP)」です。


Googleのサンダー・ピチャイCEO
  

  これまでAI上のやり取りは「情報提供」でしたが、UCPにより、AIは在庫、価格、割引、配送オプションといった詳細情報にリアルタイムでアクセスできるようになります。これにより実現するのが「ネイティブ・チェックアウト」です。消費者は、検索画面やAIとの対話画面から離脱してECサイトへ移動することなく、その場で「購入ボタン」を押して取引を完了できるようになります。

 別のセッションではShopifyのハーレー・フィンケルスタインCEOが、Shopify上のマーチャントにおけるAI(ChatGPTやGeminiなど)経由の注文が、直近12ヵ月で14倍に増加したと言っています。

 「AIを使う」企業と、「AI上で走る」企業。2026年、この差は決定的な競争力の違いとなって表れるのではないかと思います。

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