批判の対象だった複数受賞は減少?
これまでの記事では、新しくなったカンヌライオンズについて紹介してきました。では、今年の主な受賞作には、どのような作品があったのでしょうか。受賞作の傾向は、昨年までと変化したのでしょうか。
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結論から言えば、受賞作の傾向に大きな変化はなかったと思います。また、参加者からは、「全般に小粒だね」とか「昨年のFearless Girl(フィアレスガール)みたいな、今年を代表する一作は見当たらないね」という声も聞かれました。
Fearless Girl:https://www.youtube.com/watch?v=G3ApQ2H6zFs
しかし、これは「ひとつの作品が多部門で賞を獲り過ぎる」という批判もあって、1施策6部門までしか応募できないようにしたのですから、当然の結果と言えるでしょう。
さらに言えば、実は複数部門でグランプリを受賞した作品が2つあり、金賞を含めると、複数受賞は決して少なくありません。優れた施策は、様々な視点でも優れているはずですから、僕自身はそのことを問題にする必要はないと思っています。
さて、そんな中から、目立った施策について幾つかと、その背景についてご紹介して行きましょう。
「チェンジ志向」がさらに強まった!
カンヌライオンズでは、数年前から「ソーシャル・グッド」というキーワードが盛んに叫ばれました。ブランドや広告が、“世の中のためにできる良いこと”を志向し、そういった施策が高く評価されたのです。
しかし、言葉としては「ソーシャル・グッド」はあまり聞かれず、「メイク・チェンジ・ハップン」や「チェンジ・フォー・ベター」など、「チェンジ」という言葉が多用されていました。
広告やマーケティングは、“世に連れる”ものだし、そうあるべきだと思います。世界が大きな混乱期・変換期にある2018、こうした「チェンジ志向」が多く評価されたのは、僕には当然の流れに思えました。
そういった中、3つの部門(Direct、Sustainable Development Goals、Titunium)でグランプリを受賞したのが、パラオ共和国のプロジェクトである「PALAU PLEDGE(パラオの誓約)」です。
南太平洋のリゾート国パラオは、観光で成り立っている国ながら観光客による環境破壊に悩んでいました。そこで、入国スタンプを環境保護のための誓約文が入ったものに変え、入国者自らがサインをしなければならないようにしました。この誓約文を多言語で展開し、リーフレット・ポスター・ウエブサイトなどマルチに展開したと言います。
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北太平洋にある海洋ゴミの集まる広大な地域をThe Trash Islesと名付け、国にも匹敵するほどの深刻な広さだとして、国家であると認めるように国連に申請(痛烈な皮肉ですね)。パスポートや国旗、紙幣までデザインし、抗議署名としての国民登録も20万人分にものぼったと言います。
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今年、複数部門のグランプリを受賞したこの2つの応募作は、ソーシャル・グッド的な「チェンジ志向」の最たるものだと感じました。ここで具体的には紹介しませんが、Filmの2つのグランプリの1つ「The Talk」もFilm Craftのグランプリ「Hope」も、こうした「チェンジ志向」の強い作品でした。上位受賞作には、他にもいくつもこの傾向は見られました。