私は長年、多くの広告コミュニケーションの海外事例を紹介、その分析に努めているのですが、この連載では、いつもとはある意味では逆に、まず日本の話題作に目を向けて解説し、そのうえで、その意図や施策の在り方が、海外のどんな潮流と関連しているのかについて考えていこうと思います。今回は、その第13回です。
 

渋谷駅に現れた巨大文字「墾田永年私財法」は、どこの広告? 


 2月3日付け、東京都の公式Twitterアカウント「東京都防災」の投稿写真に写っていた「墾田永年私財法」という巨大文字が見る人に強烈なインパクトを残した。
 

 東京防災アカウントが訴えた内容は、職員が外出自粛を呼びかける様子だったが、たまたま背後に映ったこの単語に多くの人の目が行き、大きな話題となった。

 このビルボードは実は、「明治プロビオヨーグルトR-1」の広告板だ。よく見ると、左上には「受験生に聞きました。受験勉強で覚えた『語感の気持ちいい言葉とは』?」という文章が入り、その下に巨大な「墾田永年私財法」の文字が示されている。右下には、「もうすぐだ。がんばれ体調管理」というキャッチフレーズと商品写真が配置されている。



 受験生に見覚えのあるキーワードを示して、応援メッセージを送ることで、直接的には受験生に対してR-1に手を伸ばしてもらうことを狙った広告だ。また多くの大人も受験には様々な感慨を持っているので、そうした人からの注目も合わせて獲得しようとしたのだろう。

 他にも10種類ほどのタイプがあり、筆者のお気に入りは、「受験生に聞きました。数学を勉強してて腹が立ったことって?」という質問に対して、巨大文字で「移動する点P」と描かれているものだ。受験生の頃の遠い遠い記憶が呼び覚まされ、思わずニヤリとさせられる。



 この広告は、R-1が自らを“受験生の応援者”と位置付けることで成り立っている。その視点なくして同じ表現をしたと仮定すると、巨大文字で描かれるのは、「強さ引き出す乳酸菌」や「1073R-1乳酸菌」、「事実。R-1乳酸菌がすごい。」というフレーズになる。どうだろう? 広告臭くて、押し付けがましく、たまったもんではない。

 逆に学習塾の広告だとしても、魅力の少ないものとなっていただろう。同じ「墾田永年私財法」という巨大文字があり、“もうすぐだ。〇〇塾で頑張ろう”と書かれていたら、メッセージは直接的でいかにも広告臭く、注目を集める表現にはなり得なかっただろう。