残したい世界


―― あらためて、ノバセルで成し遂げたいことはなんですか。

大地 事業会社であるラクスルの知見を生かして、広告代理業だけでなくSaaS事業も展開するノバセルのエコシステムは日本では他に類を見ません。すべては顧客解像度を上げてクライアントを勝たせるための仕組みであり、先に話した自分個人の生存戦略とも完全に合致します。しかし、「生きてくための仕事」だけじゃつまらない。実際、クライアントを勝たせるってキレイゴトじゃなくて。セールスレコードを叩き出すって、純粋に楽しいですし、その結果クライアントが出世するのは痛快です。自分が育つ以上に、部下が育つのは、快感そのものです。

現在、ラクスルでは、成し遂げたいブランディングを見据え、たくさんのことを仕込んでいます。一方、ノバセルに限って言えば、今年は、これまで喋ってきたことを証明する「新しい事例づくり」に注力したい。僕らが参画した意味を明確に示す意味でも、クライアントには真に成果に繋がるクリエイティブを、社内メンバーには新しい成功体験経を、必ず見せていきます。僕らをいま指名してくれたら、すごく頑張りますよ!(笑)。

ところで、ノバセルは、成し遂げるべきミッションとして「マーケティングの民主化」を掲げていますが、大上段すぎて、あまりピンときてない人もいるんじゃないかと思っていて。マーケティングの果実を皆が享受できる世界とは、つまり、マーケティングの上手い下手で勝負が決まらない世界。キレイゴト抜きに、純粋に「いいもの」を作ることだけが、勝ち筋になる世界。それってもう、嘘の広告で着飾ったり、実力以上に盛ったりしなくてもいい世界なんですよね。

僕には幼い子どもが2人いますが、彼らに残したい世界は、AIに仕事を奪われるんじゃないかと汲々として暮らすディストピアじゃない。ひょっとしたらAIのおかげで週休4日くらいになって、残りの3日、本当に良いものを生み出すことだけに没頭できる、「超うらやましい世界」。本当にそうなって欲しいと切実に願いますし、AIをクリエイティブに乗りこなしながら、「マーケティングの民主化」、ガチで、自分が生きている間に成し遂げたいです。

―― 壮太郎さんもお願いします。

壮太郎 そうですね。お話したようにまずはクライアントの事業成果にコミットできるクリエイティブ人材や仕組み、組織の育成に全力を尽くしたいです。

マス広告はオワコンなどと揶揄されますが、「広告を作り出す思考」そのものは新たな企業価値を生み出す資源として再生できると信じているんです。

クリエイティブは、本物の革命を実際に起こさなくても、体験やそれを通して得た感情にポジティブな意味を与えることで、「見ている世界をガラッと変える」ことができます。クリエイターの仕事って、究極的には商品やサービスを通して得られる人生に「生きる意味」を作り出すものなのかなと。企業のクリエイティブ投資をギャンブルにせず、きちんと成果に結びつけながら、もっと言えば「雇用につながる希望」までつくり出したいと思っています。

というのも、個人的な話になのですが、私は最も人口の多い1973年生まれのいわゆる「団塊ジュニア世代」です。少年期を受験戦争、青年期を就職氷河期、壮年期に至るまで「失われた30年」の渦中であがいたあげく、老後は年金出ないかもよと言われて、ちょっとかわいそうな世代な気がするんですよね(笑)。

そんなある意味で被害者意識のある世代ですから、50歳を過ぎて転職のオファーがいただけたのは結構、奇跡的だと思っているんです。頑張ってきて良かったなと素直に思います。同年代を生きてきた人たちが、もう一度キャリアを変えてチャレンジすることもできるということを、私がクリエイティブディレクターとしてノバセルで示すことができたらと思っています。


大地 壮太郎さんと話すと、いつも勇気が湧いてきます。50歳を過ぎてさらにキャリアが輝くことが当たり前になれば、100年続く人生にも希望が持てますよね。

マーケティングをやっていると、Z世代などの新しい世代にばかり目を奪われがちですが、今、最も多くのパイと共感を取れるのは実はシニア世代だったりしないかなって。歴史はあるけれどどう変わったらいいか迷っているような企業や業界人こそ、ぜひ我々にお声がけして欲しいんです。

壮太郎さんや僕らがいぶし銀のように伴走させてもらって、地に足のついたブランドづくりや、この時代の希望になるような事例を共創できたらなと思います。

―― お2人のジョブチェンジが、マーケティングとクリエイティブの両領域にこれからどんな化学反応を与えてくれるか楽しみです。AIや人生100年時代のキャリア形成に関しても示唆に富んだ話でした。本日はありがとうございました。