パナソニック コネクトの取締役 兼 CMOとして、経営とマーケティングの両面から事業を牽引する山口有希子氏。日本IBMやシスコシステムズ、ヤフージャパンなど複数の企業で、マーケティングの戦略立案から実行、組織マネジメントに至るまで幅広い経験を積んできた。
転職先企業の突然の買収や思いがけないチャンスの到来など、キャリアには予測不能な出来事がつきものだ。そうした変化をどう乗り越え、成果へとつなげてきたのか。
トップマーケターの歩みに迫る連載「マーケターズ・ロード」。最終回となる第4回では、外資系企業で培った経験を生かし、パナソニック コネクトでゼロからBtoBマーケティング組織を立ち上げ、経営に深く関わるまでの軌跡をたどる。

転職先企業の突然の買収や思いがけないチャンスの到来など、キャリアには予測不能な出来事がつきものだ。そうした変化をどう乗り越え、成果へとつなげてきたのか。
トップマーケターの歩みに迫る連載「マーケターズ・ロード」。最終回となる第4回では、外資系企業で培った経験を生かし、パナソニック コネクトでゼロからBtoBマーケティング組織を立ち上げ、経営に深く関わるまでの軌跡をたどる。

キャリアの後半は、フェアな場所をつくることにシフト
―― IBMから現在のパナソニック コネクトに移った経緯を教えてください。
IBMで5年ほど働いたタイミングで、パナソニックからBtoBマーケティングを強化したいから来てもらえないかと声がかかりました。私は外資系に居心地の良さを感じていたので転職しなくても良かったのですが、とはいえ、日本にはまだ貢献できていないという感覚がありました。
そこで、それまではずっとフェアに評価してもらえる場所を探してきたけれど、キャリアの後半は「フェアな場所をつくること」や「次世代のために働くこと」、そして「日本に貢献すること」にシフトしてもいいのではないかと思いました。
また、会社を変革したいというパナソニックのリーダーの熱意にも心を動かされました。パナソニック コネクトCEOの樋口さんはもちろん、HRのトップやCSOとも面談を行いましたが、「一緒に改革しましょう」と非常に熱く語っていただきました。
その思いを受け取ったので、それなら中に入って、きちんとBtoBマーケティングの組織を立ち上げ、会社のトランスフォーメーションにしっかりと寄与できるチームに育てようと決意しました。
入社した当時、本社においてBtoBマーケティングの機能を持っていたと言えるのは、展示会チームと広報チームくらいでした。とは言っても、展示会チームのメンバーはほとんどがプロダクト展示場のオペレーションを担当している人たちで構成されるなど、マーケティング組織としては、ほぼゼロに近い状態でした。
そこから、戦略広報やエグゼクティブコミュニケーション、デジタルマーケティング、ソーシャル、グローバルとの連携などの立ち上げや強化を行っていきました。
最初に着手したのは、そもそもマーケティングとは何をする部署なのかという定義です。次に、それを実践できるチームをつくり、実際にプロジェクトを回して、マーケティングはこういう役割を果たしてくれるんだ、という理解を促していきました。
組織面では、各事業部の中でマーケティングの役割を担っている部門をマトリックス組織でつないで、一貫した活動が出来るようにし、共に学びレベルアップし、その学びを現場で活かせるような体制を整えました。また、外部からもプロフェッショナル人員を取り込み、プロパーの人たちと入り混じって全体でレベルアップしていくという変革を行っています。私が入社してから7年半が経ちますが、その間に組織は10数名からグローバルも含めて約200名規模での連携が出来るようになりました。
私個人としては、BtoBマーケティングチームの立ち上げの他にも、デザインやDEI(ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン)推進、カルチャートランスフォーメーションと業務範囲を広げ、現在は取締役として経営にも携わっています。

パナソニック コネクト 取締役 執行役員 SVP CMO DEI推進・カルチャー&マインド改革推進担当
山口有希子
パナソニックの企業向けソリューションビジネスを担うパナソニック コネクト(売上高約1兆2千億円、社員数約3万人)の 取締役 兼 デザイン&マーケティング部門責任者として、ビジネスと企業カルチャーの改革に取り組む。 また、DEI推進担当役員として、ジェンダーダイバーシティ等の取り組みを強力に推進している。日本IBM、シスコシステムズ、ヤフージャパン(現LINEヤフー)など、国内外の複数の企業にてマーケティング部門管理職を歴任。
山口有希子
パナソニックの企業向けソリューションビジネスを担うパナソニック コネクト(売上高約1兆2千億円、社員数約3万人)の 取締役 兼 デザイン&マーケティング部門責任者として、ビジネスと企業カルチャーの改革に取り組む。 また、DEI推進担当役員として、ジェンダーダイバーシティ等の取り組みを強力に推進している。日本IBM、シスコシステムズ、ヤフージャパン(現LINEヤフー)など、国内外の複数の企業にてマーケティング部門管理職を歴任。
―― 日本企業では、外資系出身のCMOが期待通りに機能せず、短期間で退任してしまうケースも少なくありません。そうした中で、山口さんが長くポジションに定着し、成果を上げ続けてこられた理由は何だと思いますか?
一番はやはり、「企業の戦略に応じて、やるべきことをやる」ということを徹底していることだと思います。そして、社内にあるいろいろなファンクションとのつながりも大切にしていることもあるでしょう。
マーケティングの存在価値は、社内のファンクションをつないでイシューを解決するということだと考えています。人事であれば採用マーケティングを一緒に進めたり、ITであれば連携DXプロジェクトに取り組んだり、異なる事業部が同じ課題を持っているのであれば、そこをつないでお互いに学び合えるようにしたりします。
大事なのは、「I’m here for you(私はあなたのためにいる)」という考え方です。「マーケティングを全然わかっていない!」と他部門と対立するのではなく、「役に立ちたい。一緒にやろう」という気持ちで、少しずつでも良い結果を出していくことです。
そうすると、「こういう問題に直面したときはマーケティングと一緒にやったほうがいいな」と感じてもらえるようになり、それを繰り返していくことで、社内にマーケティングの存在価値が広がっていきます。
それに加えて、今までの組織にはない「新しい価値」を提供するということも、とても重要だと思っています。そのためには、私はもちろん、マーケティングの組織全体がプロフェッショナルであることがとても重要だと思うのです。