ビギナーのためのカンヌライオンズ参加心得


 さて、4回にわたるカンヌライオンズ速報の最後に、佐藤達郎流の「ビギナーのための“カンヌライオンズ・ウォッチング”6つのポイント」を紹介させてください。ベテラン・ウォッチャーの中でも異なるやり方の人もおり、その方々のやり方を否定するつもりはありません。あくまでも僕流のカンヌライオンズとの付き合い方として、ビギナーの方の参考になればと考えています。
 

若手向けコンペティション「ヤングカンヌ」結果発表。受賞に歓喜して抱擁するグアテマラからの2人

 まず、全体としての基本中の基本は、「“カンヌライオンズが提供してくれる価値”に素直に乗っかろう」です。パス代を含めて決して安くはないのだから、彼らが提供してくれる価値に対抗したりせずに、いったん素直に乗っかることをお勧めします。その上で、6つのポイントを提示してみます。
 
①予想は要らない
 “現地に向かう仲間で盛り上がるための予想”は、否定しません、良い試みだと思います。しかしながら個人に返った時に、事前に各部門のグランプリやゴールドを予想することには意味が無いと思います。予想が当たることに何の意味があるのでしょう? 僕はなるべくまっさらに近い状態で現地に行くようにして、驚きをもって受賞作に接するようにしています。
 
②ショートリストを漁らない
 カンヌライオンズの価値の中核は、名だたる審査員たちによるキュレーション機能だと思います。美術館の学芸員が展覧会を企画するように、2万5,900点もの中から彼らが選んだ800点ほど(約3%のブロンズ以上)に絞ってチェックして、ヒントを探すことができるのです。800点だって詳しくは見切れないのですから、よほどの事情がない限り、ショートリストにまで手を出す必要はありません。多くを浅く見るよりも、絞って深く見ることをお勧めします。
 

「マーケティングビジネスはチームスポーツだ!」と実感する時
 
③話題作に絞って共通項を見つけてヒントを探す
 ブロンズ以上の800点だって、事例を何度も見たり、関連情報を調べたり、その事例の優れた点を分析してヒントを探したりするには、多過ぎるくらいです。ゴールドやグランプリだって、場合によっては多過ぎるかもしれない。僕の場合は、ゴールド以上を複数部門で受賞する“話題作”に絞ってなるべく深く考察し、できれば複数の事例に共通項を見出そうと試みて、日本の皆さんにご紹介できるヒントを探すよう努めています。
 
④ネットワークの価値を大事にする
 受賞作とセミナー以外に、カンヌライオンズの持つ大きなものの一つに、あの場でしか得られない“ネットワークの価値”があります。多くの参加者は会社経費で参加しています。各社でしかるべきポジションにいる人か、会社がこの人はいずれしかるべきポジションで活躍してくれると見込んだ人しか参加していないと考えても良いでしょう。そうした人たちと、あの特別な場所で、特別な体験を共にして、その後のご縁につなげられることには無限の価値があります。
 

会場外ではトロフィーさえもカジュアルに。大事そうに抱えてはいるが。
 
⑤情報よりも情動を。参加者の、場のエモーションを感じて帰る
 僕が重視しているのは、毎年の“雰囲気”です。なんなら“会場の一角に立ちすくんでその年の風を感じてみる”くらいの気持ちで臨んでいます。具体的には、セミナー視聴時には、内容をすべて理解することを目指さずに、頻繁に耳に聞こえてくるキーワードに注力しています。ある年は「ソーシャルグッド」であり、別の年は「パーパス」であり、昨年は「ヒューマニティ」でした。情報はネットで収集が可能です。現地でしか得られないものは、情報よりも情動です。
 

エージェンシーネットワークを表彰する場面。いったい何人が登壇?
 
⑥寝不足、上等。ふだんの3倍くらい、脳みそを稼働させる
 カンヌライオンズの1週間は、正直、しこたま忙しいです。朝9時台からセミナーがあり、毎日19~21時には授賞式があって、これはハズせません。21時過ぎてから夕食に出かけ、可能であれば、ネットワーキングに努めます。ホテルに戻るのはたいてい24時過ぎで、そのまま寝入ってしまい、朝早く起きてシャワーを浴びて、またまた会場に向かう日々です。しかし、この1週間は、ふだんの3倍くらい、脳みその動きが活発化します。少しくらいの寝不足は覚悟して、めいっぱい楽しんで、吸収しましょう。
 

最終日の授賞式後の様子。いつにも増して大混雑

 僕のカンヌライオンズ2025の現地レポートは、今回で終了です。僕からすると、今年の受賞作は、例年以上に豊作だったように感じています。そうした豊作だった事例やセミナーから、役に立つヒントを少しでも皆様にお届けできていたら、とても嬉しいです。
 

日本人が「スペイン坂」と呼ぶ、旧市街近くのレストラン街
 

深夜の街並みを歩いていると、海鳥が街のど真ん中を
 

閉会翌日の土曜日。ニース空港から帰ります!
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