コアを変えずに新しい姿勢を打ち出していく


ーー 「コーズマーケティング」には「本当にそれが売上につながっているのか」という問いがつきまといますが、サラヤの取り組みは売上に直結したと言えるでしょうか?

代島 「KPIは売上」というのは、ボルネオの活動を始めた時に現社長の更家悠介にはっきり言われました。「売上が失敗したらこのコミュニケーションは失敗」と。なので売上はシビアに見ており、ヤシノミ洗剤の売上は活動開始時から3倍に成長しました。ハンドソープもゆっくりではありますが、信頼を獲得していることが、特にコロナ禍後の売上に現れています。

ーー 今のお話を聞いて青木さん、いかがですか。

青木 重要なお話ですね。私たちも「月化粧基金」として緑化推進への寄付を行うほか、地域の小学校の給食に月化粧をプレゼントする取り組みも行っています。学校や保護者の方からは、それが子どもたちの出席率の向上につながっているという話を聞きますし、回り回って購買に行き着くことがあると思います。目先の売上や利益を得ることと、将来への投資はどちらも大切だと思いますし、ある程度の余裕がないとできないことではありますが、できることがあるならば多くのことにチャレンジするべきだと思います。

ーー これほど急激な環境変化の時代においては、ブランドの何を「変える・変えない」が重要なテーマになります。特に両社とも消費財を扱っており、商品を変えすぎると顧客の信頼を損ねるリスクもあります。そのあたりはどのように考えていますか。

代島 サラヤは本来、感染予防の医薬品メーカーであり、サイエンスベースドで研究とものづくりを行っています。だからこそ一般の消費者に提供するヤシノミ洗剤も手荒れしにくい、という順番です。しかし、一般にはヤシノミ洗剤のイメージが強く、現在は全ての商材がサラヤという大きな傘に入るように、リブランディングを行っているところです。

かつて当社は「地球に優しい」を掲げていましたが、現代ではこういうふわっとした概念ではいけません。「感染予防の最前線で戦う医薬品メーカー」だからこそ、コスメもその他の商材も安心して使っていただけると考えています。ボルネオやウガンダでの取り組みはコアの部分として変えずに、その内側をどんどん見せて、サイエンスベースド、エビデンスベースドのプロダクトで信頼をさらに獲得していく。それが私たちのやり方だと思っています。
  

ーー 青木さんはいかがですか。

青木 先ほどご紹介した4つの経営理念の考え方を「変えてはいけないもの」と思っています。ただ、逆に経営理念から逸脱しないことであれば「何でも変化をもってチャレンジできる」と考えて、攻め続ける経営をしてきました。40年を振り返れば累計で1200種類ものお菓子を創り出し、常にラインナップを入れ替えながら、現在は青木松風庵の直営28店舗で、常時100種類、年間では400種類のお菓子をお届けしています。

ただ、多品種少量生産では利益が出にくく、お菓子の価格も上げなくてはならないため、直営店舗では多品種少量生産を行いながら、一方では利益の出やすい「月化粧」というブランドを育てることに注力しています。青木松風庵という名前よりも「月化粧」の認知が拡大していくようにシフトしていっており、そのために他社やIPとのコラボも大事にしています。特に大阪でイベントが行われる際はいろいろなお声がけをいただくことが多いので、可能な限り協力していきたいと思っています。

その結果、「月化粧」は1年目の年間50万個から、16年目となる2025年は年間2300万個ほどに販売数を伸ばしており、1.5秒に1個売れている計算になります。どんどん新しいものを提供することでお客さまに喜んでいただく直営店と、利益を出してくれる「月化粧」ブランド、これらをセットで進めていくのが現在の経営方針です。