日本の音楽・映画・ゲーム・漫画・アニメなどのエンタメコンテンツが、世界でも注目されることが多くなった昨今。本連載は、さまざまなエンタメ領域の舞台裏で、ヒットを生む旗手たちの思考をnoteプロデューサー/ブロガーの徳力基彦氏が解き明かしていく。

 今回、徳力氏が対談したのは、LDH JAPAN エグゼクティブストラテジストの石井一弘氏。前編で紐解いたタイでの成功ののち、7人組ダンス&ボーカルグループ「PSYCHIC FEVER」は2024年にリリースした楽曲「Just Like Dat feat. JP THE WAVY」が、シンガポール、マレーシア、フィリピン、ベトナム、タイ、韓国、台湾、日本のアジア8ヵ国でチャートイン。その波がフランスや米国などの欧米圏にも波及し、2025年は米国6都市を巡るツアーも実現した。

 後編ではPSYCHIC FEVERがどのようにアジアから欧米へと活躍の場を広げていったのかについて迫った。
 

PSYCHIC FEVERが欧米含む世界へ躍進した背景


徳力 PSYCHIC FEVERは、フランスの「JAPAN EXPO」に出演したり、米国でのツアーを成功させたりと、アジアだけでなく世界中にファンが拡大している印象です。どのような経緯で欧米にも拡大していったのでしょうか。

石井 端的に言うと、「Just Like Dat feat. JP THE WAVY」(以下、「Just Like Dat」)という楽曲が世界的にバイラルヒットしたんです。この楽曲を2024年1月にリリースし、同年3月にベトナムのホーチミンで開催された「Japan Vietnam Festival」に出演したら、収容人数が2000人の会場に約3000人と、あふれんばかりの観客が集まりました。
 
株式会社LDH JAPAN
ミュージック本部 エグゼクティブストラテジスト
石井 一弘氏

徳力 確か、TikTokがヒットの火付け役になったとか。

石井 そうですね。ホーチミンの会場では大合唱が起きて本当にびっくりしました。その次のステップとして、5月にシンガポールで世界三大音楽見本市の「MUSIC MATTERS LIVE 2024」に出演したのですが、そこでもまた世界中のメディアから注目されまして。その流れで、7月にはパリのJAPAN EXPOに出演しました。
  
JAPAN EXPOに出演したPSYCHIC FEVERのメンバー

徳力 JAPAN EXPOはオファーがあったんですか。

石井 いえ、こちらから声を掛けました。データを見ると、世界のあちこちに飛び火していたので、その火が熱いうちに攻めたいなと思ったんです。前年に出演していたのがYoshikiさんでしたし、最初はまともに取り合ってもらえなかったのですが、「今バズっているから」といろいろプレゼンして出演にこぎつけました。当日は会場に3000人ほどが集まり、大熱狂、大合唱が起きて、主催者は本当に驚いていましたね。

徳力 私もその動画を見て、本当に驚きました。

石井 主催者には「JAPAN EXPOを20年間やっているけど、こんな熱狂的なライブは初めて見た」と言われました。

それと同時期に、今度は米国に関して、コロナ禍以前の米国進出の際に付き合いがあったPR会社に相談したところ、米国南部のヒップホップコミュニティにも「Just Like Dat」が刺さっているという情報を得ました。それで、6ヵ月以内に米国に来いと言われたんです。

徳力 TikTokがきっかけとなって、一気にグローバルへ広がっていったわけですね。

石井 そうです。PR会社が言うには、大抵の場合、日本のアーティストはロサンゼルス、西海岸の日本人コミュニティ止まりだけれど、そこを飛び越えて現地、特に南部のコミュニティまで広がったのは初めてだそうです。JAPAN EXPOを終えてからLAに向かい、メンバーを連れてメディアツアーを行いました。ハリウッドのメインストリートでバスの中から公開収録するラジオ番組があるのですが、その収録時には約300人が集まり、そこでも大熱狂が起こりました。もう大合唱なんで、びっくりしました。さらに驚いたのは、ハリウッドでも、サンタモニカでも、コリアンタウンでも、ホテルのロビーでも、「あっ!PSYCHIC FEVERだ!」って、声をかけられたんですよね。渋谷でも声をかけられないのに。

徳力 すごいですね。
  
PSYCHIC FEVERのUSツアーのステージ
 

東南アジアのファンが、世界展開のカギに


徳力 PSYCHIC FEVERに限らず、TikTok経由のヒットは日本の音楽が世界に広がる上でも重要なルートになっている印象ですが、どのようなポイントがあると思われますか。

石井 タイをはじめとする東南アジアのファンが、毎週のように行っているライブの様子を撮影してどんどんSNSに上げ、それがどんどん広がっていきました。日本のアーティストはライブの撮影を禁止していることが多いのですが、海外では撮り放題。熱心なファンたちは、きちんと4Kで撮影して、編集して、すぐにアップしてくれるんです。SNSでの応援力に後押しされました。

徳力 その応援があるからどんどん広がるわけですね。欧米でもその動画を見ている人たちが意外とたくさんいて、TikTokのバズと相乗効果で広がっていった。

石井 まさにそうです。ファンがいわゆる推し活的に熱心に上げるので、動画の量が多いこともポイントです。

徳力 でも、TikTokでバズったのはなぜだったのですか。TikTokでバズるのは“ダンスチャレンジ”のような、ダンスが面白いものが多いなという印象ですが、「Just Like Dat」はそういうわけでもないですよね。

石井 欧米に広がったのは、ナイジェリア系アメリカ人の女の子が「Just Like Dat」の音楽で自分オリジナルのダンスを踊っている動画を投稿し、それがいきなり100万回再生を記録したことがきっかけです。それも、そもそもはタイや東南アジアのファンの投稿した動画がTikTokのアルゴリズムに乗って欧米にも飛んでいったからだと思うのですが、さらにその女の子の動画がアルゴリズムに乗って広がっていきました。

徳力 音楽のメロディーが素晴らしいから、それでみんなが好きに踊った動画がそれぞれバズって広がっていったと。日本の楽曲にはあまりないパターンですよね。

石井 「Just Like Dat」は、もちろん音楽そのものがいいということもありますが、欧米に飛び火させるファンダム(ファンのコミュニティ)があることが大きかったと思います。

徳力 ファンの人たちがいろいろな動画をつくって投稿した結果、それを見た人がその音楽に乗って自由に振り付けをして、それがダンスチャレンジになっていったと。

石井 そうです。それが米国はもちろん、欧州にも飛び火して、結果的にパリのJAPAN EXPOに「PSYCHIC FEVERを見たい」という人がたくさん集まったという経緯です。

徳力 そこで完全に手応えをつかんだわけですね。