「道頓堀 金龍のしっぽ Project」:ネガティブな“事件”を大阪らしいユーモアで解決
プロジェクト概要:
大阪・道頓堀のラーメン店「金龍ラーメン 道頓堀店」のトレードマークである龍の立体看板は、店舗正面に龍の顔や胴体があり、側面の壁から尻尾が飛び出る構造になっていた。この尻尾部分が隣接地にはみ出ていると訴えられ、撤去することになったのが事の始まり。プロジェクトチームは、単に尻尾を切るのではなく、新たに尻尾の断面をデザインし、龍の目には「涙」の装飾を追加、切られた尻尾は近隣に開店したカニ料理店の立体看板に設置するなどのアイデアを実現した。ネガティブなニュースを「龍の尻尾を切ったのはカニ」という大阪らしいユーモアのある物語に昇華させた本施策は全国で話題になり、金龍ラーメンのブランド好意度を大きく向上させるなどの成果につながった。

宮原広志氏博報堂 アクティベーションディレクター
ー 今回のプロジェクトは、宮原さんを中心とする博報堂からの自主提案で実現したのですね。
はい、贈賞式の壇上でお話ししたことに誇張は一切なく、金龍ラーメンの立体看板の尻尾部分に撤去命令が出たという情報はニュースで見て初めて知りました。ニュースが全国的に報じられ、Yahoo!ニューストピックスにも上がっているのを見て、後輩と「この状況、もったいないよね」と話したのが始まりでした。
ニュース自体には、この事態を面白がるニュアンスもあったように思いますが、SNSを見てみると擁護派と批判派に意見が二分されていて、思ったよりも批判派が多いことがわかったんです。撤去命令が出た当時は、おそらく4:6ぐらいで「ルール違反だ」「往生際が悪い」といったネガティブな声が多かったように思います。
話題が、「裁判所から撤去命令が出た。今後の金龍製麺側の対応が注目される」という文脈に終始していて、ポジティブな雰囲気がまったくなくない。これは大阪らしくないし、もったいないと思いました。
ー プロジェクトの構想から具現化までの間にどのような難所があり、それをどう乗り越えましたか。
まず、金龍製麺の社長にアプローチするのが大変でしたね。問い合わせ先はどこにも書いていないし、当時はSNSもやっていなかったのでダイレクトメッセージも送れない。だから、直接お店に行くしかありませんでした。行ったものの、当然そこに社長はいなかったので、出力した企画書を店長さんらしき方に渡すところから始めました。
プロジェクトの実施後にも思わぬ難所がありました。実は、尻尾を切って龍の目に「涙」の装飾をしたタイミングと、カニ料理店の看板のハサミ部分に尻尾を置いたタイミングの間は、3週間ほど空いているんです。前者を実施すれば、世の中の批判の声は一気に減ると思っていたのですが、実はそうでもなく、擁護と批判の割合が6:4に逆転した程度。「いや、なんでお前らが被害者意識やねん」「ルール違反をしていた金龍が威張るな」といった、さらなる批判の声も出てしまいました。
そこで、次の一手として実行したのが、切った尻尾をカニ料理店の看板のカニに持たせるというアイデアでした。尻尾を切った当時はまだカニ料理店はオープンしていなかったし、切った尻尾の使い道も当初は特に考えていませんでしたが、目の前の状況を見て、切り取った尻尾をどこに出現させたら「ここまできたら、もう笑うしかないよね」という空気をつくれるかを考え始めました。そんな矢先、龍の立体看板を手がけ、今回の尻尾の切断もお願いした看板制作会社のポップ工芸社さんが近隣でカニの立体看板を制作中だと聞いて、「これだ!」と思ったわけです。シンプルですが、同じ立体看板の中でストーリーを完結させるのがいいと思いましたし、道頓堀の立体看板文化を盛り上げることにも繋げられたらという気持ちもありました。
ー 最初からすべてを決めきらず、世の中の反応を見たり、周囲からの情報を得たりしながら決めていった部分も多かったのですね。
そうですね。世の中の論調を見ながら、「こうしたら笑ってもらえるんじゃないか」とか「ここまでふざけたらダメだろう」とか、塩梅を見極めながら調整していきました。
ー 通常のクライアントワークをこなしながら、今回のような自主提案にも普段から積極的に取り組まれているのですか。また、クリエイターやプランナーは、こうした自主提案により積極的に取り組んだほうがいいと思われますか。
いつもいつもというわけにはいかないので不定期ですし、不発に終わることもあります。でも、自主提案はぜひやったほうがいいと思います。
博報堂グループ内のクリエイティブ共有会でも、自主提案から始まったプロジェクトがよく紹介されます。その中には、廃棄ホタテ貝殻を再利用したヘルメット「HOTAMET(ホタメット)」(甲子化学工業)や日本のアルバイト環境の変革を目指す「座ってイイッスPROJECT」(マイナビ)といった、過去にACC賞を受賞したプロジェクトもあります。ホタメットは、クライアントにダイレクトメールを送ったのが始まりだったとか。そういう話を聞くと、日本全国どこにいたって「面白い仕事がない」とは決して言えないなと思います。面白い仕事の種を自ら見つけて、具現化し、世の中に送り出していくことの大切さを、今回改めて感じました。




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