マーケターズ・ロード 元グーグル日本法人代表 村上憲郎 #01

Google日本事業を成長させた「徹底的に任せるマネジメント術」元グーグル村上憲郎

 第一線で活躍するトップマーケターは、どのようにキャリアを歩み、その時々で何を考えて、どう実行してきたのか。そして、その経験は、次なるキャリアや現在の仕事にどのように生かされているのか。

 日立のエンジニアからキャリアをスタートし、DEC日本法人を皮切りに外資系IT企業のトップを歴任、グーグル米国本社副社長およびグーグル日本法人社長・名誉会長としてインターネット業界の第一線で活躍し続けてきた村上憲郎氏。

 黎明期からインターネット広告の成長の軌跡を間近で見つめ続けてきた同氏は、日本のインターネット広告市場の今、そしてこれからをどう見ているのか。そして、グーグル入社のきっかけの一つとなった人工知能(AI)、IoT、ビッグデータ、5Gといった先進テクノロジーが日本企業やマーケターにもたらす影響をどう予測するのか。自身の半生を振り返りながら語ってもらった。
 

仕事ができないから、社長をやるしかなかった


村上憲郎氏むらかみ・のりお/日立電子のエンジニアとしてキャリアをスタートし、DEC日本法人のマーケティング取締役、ノーテルネットワークス日本法人CEO、ドーセント日本法人代表などを歴任し、2003年4月よりグーグル米国本社副社長兼グーグル日本法人代表取締役社長に就任。2009年に日本法人の名誉会長になり、2011年退任。エナリスの代表取締役を経て、現在は複数の企業のアドバイザーなどを務める。

 私のキャリアの中で2003年から2009年の7年間にわたって、グーグル日本法人の代表を務めたことは素晴らしい思い出となりました。

 とはいえ、私が「自分でやったこと」は、何もないんですよ。

 現在でもインターネット業界や広告業界を中心に様々な場で活躍し続けている優秀な人たちに集まってもらって、彼らに積極的にチャレンジしてもらったというのが偽らざる事実です。

 例えば、AdWordsやAdSenseを主軸とするインターネット広告事業は、高広さん(編集部注:高広伯彦氏。広告・メディア・マーケティングコンサルタント、コミュニケーションプランナー)、佐藤さん(編集部注:佐藤康夫氏。現在はアタラ合同会社会長)、そして有園さん(編集部注:有園雄一氏。現在は電通デジタル 客員エグゼクティブコンサルタント、zonari合同会社 代表執行役社長)といった人たちが、マーケティング事業は岩村さん(編集部注:岩村水樹氏。グーグル日本法人 専務執行役員CMO)が中心となって盛り立ててくれました。

 また、一時、全世界の売上のほとんどを日本法人が担っていたモバイル広告の立役者は、現メルカリ執行役員CBO(Chief Business Officer)のジョン・ラーゲリン(編集部注:グーグルで日本及びアジアパシフィックにおけるモバイルビジネスとプロダクトの責任者、Androidグローバルパートナーシップディレクターなどを歴任)でした。エヌ・ティ・ティ・ドコモで「iモード」に携わったジョンをグーグルに引っ張ってきたのは、我ながら英断だったと思います。

 そうした現場をもし私自身が担うことができていたら、社長職なんてやっていなかったと思います。自ら現場でチャレンジするほうが面白いに決まっていますから。そうした現場仕事ができないから社長をやってたわけです。

 しかし、だからこそ優秀な社員の皆さまに各事業を上手く仕切ってもらうことができた。プロジェクトに主体的に取り組んでもらうことができた。そう捉えることは、できるかもしれません。

 スタッフが「村上さん、どうしましょう?」と意見や判断を求めてきたとしましょう。続くやり取りは、大体いつも次のようなものでした。

村上 「どうしましょう?と聞くのは、やめてください。あなたのアイデアはないのですか?」
スタッフ 「A案かB案、C案のどれかだと思います」
村上 「あなたはどれだと思うのですか?」
スタッフ 「A案です」
村上 「あなたがA案と言うなら、A案なのでは?この会社で、その分野を見ているのは、あなたしかいないのだから」

 僕は「何かあったら一緒に責任をとるから、やってみなさい」なんて、優しいことは言いません。「あなたが責任もってやりなさい」と言っていました(笑)。



 相手の年次や経験は関係ない。私は、新卒社員にだって同じように言いますよ。

 「いまこの瞬間、自分が任されてるこの機関銃を射たなければ、敵に敗北する」そういう気持ちでやらなければ、何事かを為し遂げることはできません。仕事の現場は、そういうものですよね。

 トップとしても社員の皆さまに仕切ってもらうのが一番ラクです。

 ですから、社員が考えたり判断したりしやすいよう、折に触れて「大きな絵」を共有することは意識していました。つまり、米国本社の目標や方針、課題を踏まえて、日本法人が目指すべき方向性を提示するのです。その上で「この機関銃を打つのは、あなた」「いざという時、突撃するのはあなた」といったお願いをしていました。

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