マーケターズ・ロード 元グーグル日本法人代表 村上憲郎 #02
元グーグルCEO エリック・シュミットが見初めた「ミスターAI」 元日本法人社長・村上憲郎
グーグルの「Android戦略」への助言
グーグルが大きなビジネスチャンスを掴むためのサポートができたのも、グーグル在籍中のたいへん意義深い経験でした。
日本法人のモバイル広告事業が好調だったことから、シュミットからモバイルインターネット事業について相談を受けたことがありました。
そこで2006年、シュミットを当時エヌ・ティ・ティ・ドコモでiモードの戦略立案に深く関わっていた夏野さん(編集部注:夏野剛氏。現ドワンゴ代表取締役社長。当時はエヌ・ティ・ティ・ドコモ執行役員プロダクト&サービス本部マルチメディアサービス部長)と、当時KDDI執行役員コンテンツ・メディア事業本部長だった高橋誠さん(編集部注:現KDDI代表取締役社長)という2人のキーマンのところに連れて行ったのです。
そのとき、お二人とも口を揃えたかのように同じことをおっしゃったのを覚えています。もしグーグルがモバイルインターネット事業に参入するなら、「walled garden(塀に囲まれた庭)」(編集部注:クローズドプラットフォーム。一部のユーザーに利用を限定し、そのユーザーにできるだけそのプラットフォーム内で活動してもらう戦略のこと)は避けたほうがいい、と。
DoCoMoもauもハード、キャリア、プラットフォーム、コンテンツとすべてをバーティカルにインテグレートしている。すべてをコントロール下に置けるという意味で当然メリットはあるが、あまりに大変なので避けるべきだと強く言われました。グーグルは、ホリゾンタルにセパレートして、プラットフォームに徹したほうがいいと。
ちょうどグーグルがアンディ・ルービン(編集部注:Android創業者)からAndroidを買って、アップルに倣った戦略でいくべきなのか悩んでいた時期のことです。夏野さんと高橋さんからは、良いサジェスチョンをもらったと思っています。
最近、ビル・ゲイツが自身の過去のビジネスを振り返って、「グーグルはAndroidによって巨大なスマートフォン市場を手にした。マイクロソフトがそれを得られなかったことが、私にとって最大の過ちだ」という趣旨の発言をしたそうですね。「ホリゾンタルにセパレートする」というのは、まさにマイクロソフトの戦略たるものですから、グーグルに先行されてさぞ悔しかったに違いありません。
グーグルでの「最後の仕事」
2009年にはグーグル日本法人の名誉会長に就任し、2011年に退任します。グーグルでの私の最後の仕事は、オフィス移転でした。どんどん社員が増えて、立ち上げ当時から入居していた東京・渋谷のセルリアンタワーにいよいよ入りきれなくなり、移転の必要に迫られたのです。
移転先は、六本木ヒルズ。もともと、ヤフーの入居していたフロアでした。入居にあたり森ビルに提示した注文は、「テナント内で煮炊きをさせてほしい」ということ。米国本社にあるカフェテリアを、日本法人にもつくりたいと思ったのです。
「他のテナントには絶対に秘密にしてくださいよ!」という条件で許可してもらったのは良い思い出です。
※第3回「常に最悪の事態を想定していれば、問題は解決する」村上憲郎に影響を与えた2人の先輩に続く