マーケターズ・ロード 元グーグル日本法人代表 村上憲郎 #03

「最悪の事態を想定していれば、問題は解決する」元グーグル 村上憲郎に影響を与えた2人の先輩

前回の記事:
元グーグルCEO エリック・シュミットが見初めた「ミスターAI」 元日本法人社長・村上憲郎
 グーグル米国本社副社長およびグーグル日本法人社長・名誉会長としてインターネット業界の第一線で活躍し続けてきた村上憲郎氏。黎明期からインターネット広告の成長の軌跡を間近で見つめ続けてきた同氏の半生を振り返りながら、日本企業やマーケターに求められる視点について考えた(第3回/全4回)。
 

村上憲郎氏に影響を与えた2人の人物


村上憲郎氏むらかみ・のりお/日立電子のエンジニアとしてキャリアをスタートし、DEC日本法人のマーケティング取締役、ノーテルネットワークス日本法人CEO、ドーセント日本法人代表などを歴任し、2003年4月よりグーグル米国本社副社長兼グーグル日本法人代表取締役社長に就任。2009年に日本法人の名誉会長になり、2011年退任。エナリスの代表取締役を経て、現在は複数の企業のアドバイザーなどを務める。

 これまでのキャリアの中で、影響を受けた人物はたくさんいますが、今回は2人の人物を挙げたいと思います。

 一人目は、DEC日本法人に入社した頃、営業の仕事を教えてくれた5歳上の先輩社員です。教わったのは「DECは売っているのではなく、買ってもらっている」ということでした。

 語弊を恐れず、あえて極端な例として紹介しましょう。同じ自動車ブランドでも、ベンツは「売って」いて、ポルシェは「買ってもらって」いると思います。

 ベンツを買う人は、目黒通りをどちらかと言えば“ドヤ顔”で走りたい人。もちろんそういう人ばかりではないでしょうけれど、クルマがそこまで好きなわけでも詳しいわけでもない人だと思います。一方でポルシェを買う人は、クルマが好きな人が多いと思うのです。「ポルシェについて、メーカー以上に知っている」という自負があるのです。

 同様に、アイ・ビー・エムは「売って」いて、DECは「買ってもらって」いる。お客さまには、DECのマシンが好きで、DECのことなら隅々まで知っているという方が多かったように思います。そんな方のところへ私が行って新製品について滔々と語ってしまったら、「最近入ったばかりの若造から、DECの良さなんか聞きたくない!」と思われて終わりです。

 だから、お客さまを訪問したら何の説明もせず、雑談をしてただパンフレットだけ置いてくればいいのだ、と。それで1週間後に再訪すると、「この前パンフレットをもらった新製品、いいね!あれがこうで、ここがこうで……」と、何がどう良いかをお客さまのほうから説明してくれて、しかも予算まで確保してくれるのです。「人気商品なので、どれくらいで納品できるか会社に確認してきます」と電話しに行っている間に、注文書を用意して待っていてくださるのです。

 技術者出身の強みを生かそうという思いもあったでしょう、私はとにかく新製品の情報をベラベラと喋ってしまいがちでした。

 しかし、セールスは喋ってはいけないのだと知り、目から鱗が落ちるような感覚でした。もちろん、どんな会社にも当てはまるという話ではなく、熱狂的なファンがいる稀有な製品を持つ会社だったがゆえの、ありがたい環境だったわけですが。

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