マーケターズ・ロード 足立光 #01
日本マクドナルドCMO足立光氏が、P&Gで身につけた「強さ」とは
成長企業の第一線で活躍するトップマーケターは、どのようにキャリアを歩み、その時々で何を考え、どう実行してきたのか。そしてその経験は、次なるキャリアや現在の仕事にどのように生かされているのか。
マーケティングの雄・P&Gに新卒で入社し、ブランドマネージャーとして数々のブランドの成長を牽引、日本人初の韓国赴任を経験するなど目覚しい活躍を見せた足立光氏は、コンサルティング会社や外資系メーカー経営者などを経て、2015年に日本マクドナルドのマーケティング本部長に就任。業績低迷に苦しんでいた同社のV字回復の立役者のひとりとなった。
今、日本でもっとも注目を集めるマーケターと言っても過言ではない足立氏が、これまでのキャリアを通じて考えてきたことを振り返るとともに、これからのマーケターに求められる視点やスキルについて示唆した。
P&G人材が注目を集めている2つの要因
昨今、数々のメディアで、これまで以上にP&G出身の人材への注目が高まっている様子が見受けられます。まずは、その要因について私なりに分析してから、私がファーストキャリアとしてP&Gを選択した理由を振り返ってみたいと思います。注目されている要因は「タイミング」と「集まっていた人材」の主に2つあると考えています。
まずは「タイミング」。今はちょうど、P&G人材が注目されやすいタイミングに差し掛かっているということです。
同社が新卒採用を開始した1980年代後半から1990年頃に入社した人材が40代後半から50代という年齢を迎え、P&G内外で影響力のあるポジションに就き始めています。
さらに注目度を押し上げている要因は、現在、P&G以外のさまざまな企業・業界で活躍している人材が多く存在するという事実。これは、2009年にアジアのヘッドクォーターが日本からシンガポールへと移った際に、多くの人材がP&Gを去ったことも背景にあると言えるでしょう。
次に「集まっていた人材」です。
P&Gは今でこそ、日本でも名が知れた大企業へと成長しましたが、私が入社した1990年当時はまったくの無名。就職先として選ぶことは、客観的に考えると「ありえない」選択でした。実際、私の周りの友人も9割以上が日本企業、特に銀行・証券・保険・商社などの大手企業を選択しました。
一方でP&Gには、大多数の人とは異なる選択をしたユニークな人たちが集まっていました。例えば、大阪近鉄バファローズ(現・オリックス・バファローズ)のドラフト指名を蹴って入社した人もいたし、司法試験に合格しながらP&Gを選んだ人も。
日本マクドナルド 上席執行役員 マーケティング本部長
足立 光(あだち・ひかる)
1968年、米国テキサス州生まれ。一橋大学商学部卒業。P&Gジャパン マーケティング部に入社し、日本人初の韓国赴任を経験。ブーズ・アレン・ハミルトン、およびローランドベルガーを経て、ドイツのヘンケルグループに属するシュワルツコフヘンケルに転身。2005年には同社社長に就任。赤字続きだった業績を急速に回復した実績が評価され、2007年よりヘンケルジャパン取締役 シュワルツコフプロフェッショナル事業本部長を兼務し、2011年からはヘンケルのコスメティック事業の北東・東南アジア全体を統括。ワールド 執行役員 国際本部長を経て、2015年より現職。
そんな「ユニーク」な人たちが、P&Gで「圧倒的な」経験を積むことになります。
と言うのも、ビジネスが急成長していたので、やるべき仕事は山のようにありました。必然的に、普通の企業なら自分たちより10歳以上年上の人がやるような業務でも、入社1~4年目ほどの若手が担わなければならないケースが多くなります。
なにしろ、新卒採用を始めたばかりで、社員のほとんどが「若手」なんです。その結果、他社の同年代の人材と比べ、経験値を大幅かつスピーディに高めることができたのです。やってる方は大変でしたけどね。
そして、ユニークかつ経験値が高い人というのは、マーケティング部門のメンバーだけはありません。
ファイナンスやIT、セールス、サプライといった部門も、同様な理由で極めて優秀な人材を輩出しています。ファイナンス部門から有名企業のCFO(Chief Finance Officer:最高財務責任者)に就任した人、IT部門から有名企業のCIO(Chief Information Officer:最高情報責任者)に就任した人、セールス部門からさまざまな企業のCEOに就任した人など、たくさんいるのです。
部門を問わずユニークな人材が集まり、それぞれが圧倒的な経験を積んだ。それがP&Gという会社であり、マーケターはP&Gが輩出した優秀な人材のほんの一部でしかありません。
昨今、マーケティング部門・マーケターだけが取り出されて語られることには、少し違和感を覚えています。